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アンジェリークは、真剣な顔をしたエルンストとレイチェルを相手に、一生懸命アルフォンシアの状態を説明した。 「確かに望みはここしばらく不安定ですけど、私とはちゃんとお話もしてくれますし、具合が悪いようには見えませんでした…」 透明感のある少し高めの声が、緊張のせいか うわずって、もっと可愛らしい声になった。 レイチェルの眉が、ぴくりと動いた。 「それじゃエルンスト。ワタシこれから行く所があるから、お先に失礼するね。アルフォンシアが元気だと分かったならいいんだ。アンジェ、またね」 レイチェルは、思わせぶりにアンジェリークにウィンクすると、さっそうと王立研究院を出て行ってしまった。 (レイチェルったら!…気づかれちゃったよね…怒ったかな。ライバルの私がこんなんじゃ……) 見るからに落ち込んでしまったアンジェリークを見て、エルンストは慌てて励ました。 「そんなに哀しそうな顔をなさらないで下さい。…私も出来る事はお手伝いさせていただきますから。ね?」 その励ましは的外れなものであったけれど、アンジェリークには思ってもみない言葉だった。 そして、やさしい。 「はい。ありがとうございます」 自分を応援してくれている彼に少し胸が痛んだけれど、アンジェリークは満面の笑みでエルンストに応えたのである。 無邪気な彼女は自分のパートナーのことをよく知らなかった。 *** 王立研究院を去った後、レイチェルは鋼の守護聖ゼフェルの執務室を訪れた。 「よぉ。遅ぇじゃねーか。こっちは待ってんだから…その…もっと早く来いよなっ!」 語尾が強くなるのは照れた時の彼のクセだ。 「ごめんなさい、ゼフェル様。今日はアンジェの様子が気になって」 机に行儀悪く座ったまま、まだ少年の面影が残る細い腕を頭の後ろで交差してゼフェルは少しイラついた口調で喋る。 「気にならないんですか? 育成が止まってる理由」 レイチェルが、にこにこしながらゼフェルに近づく。 「お前以外はどーでもいいよ…」 呟いてるのか、囁いているのか分からない、低くて掠れた声。 「どわあああああっっ!! な、な、何しやがんだ、テメー!!」 だが彼は、その一瞬で現実に引き戻されたらしい。 「イターイ! ゼフェル様ヒドイ! ワタシまでひっぱるなんてぇ」 そう答えたあと、ゼフェルは突然吹き出して、大笑いし始めた。 「ぷっ…お前が…ハゲて…ルヴァのターバンかよ…あはははははははっ…ダッセェー…わははははははっ…に、似合わねぇ…ッ…」 彼らが笑い終わるまでには、数分間の時間が必要だった。 今の2人は、大きな机の前に、かくれんぼでもしてるかのように床に座っている。 「あの娘もね、恋をしたんです」 脈絡が飛んでいたので、彼女がアンジェリークのことを言っているのだと了解するまでに、ゼフェルは数瞬かかった。 「…誰に」 抑揚のない声が、振動となってゼフェルに直接響く。 「だからってお前が代わりに女王になるなんて言わねぇよな? ずっと俺と一緒にいるって言っただろ!?」 不安に負けそうになって、ゼフェルはレイチェルを引き離すと大声で怒鳴った。 「大丈夫です。ゼフェル様。ワタシはずっとアナタの傍にいます…。ちゃんと一緒に…」 そう言い切ったレイチェルは、とても綺麗だとゼフェルは思った。 かすめるような口づけをかわす。 「ほらね。約束です」 はにかんだままそう言うと、レイチェルは立ち上がりスカートの裾をはたいた。 「それじゃゼフェル様、ワタシのハートはもうないんで帰ります。お邪魔しました!」 元気に出て行く彼女の後姿を見送ると、ゼフェルは大きく息を吐いた。 「はああああっっ…カッコ悪ぃ…まだ震えてやがんぜ…」 余韻に浸るように小刻みに震える両手を強く握り締めて、 ゼフェルはよろよろと立ち上がった。 「確かに…好きな奴と一緒になれねぇのは可哀相かもな…」 と一人ごちた。 *** 同刻。 「もう…限界なはずだ」 その言葉は悲痛な響きを含んで、そのまま宙に溶けた。 |
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