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「もう…限界なはずだ」 エルンストは立ち上がるとデスクに散らばった資料をかき集め、迷わずに女王補佐官の執務室へと向かった。 「アルフォンシアについてお話したいことがあります。少しお時間をいただけるでしょうか」 女王とお茶を飲んでいたロザリアを呼び出し、彼は仮説を提案した。 「アルフォンシアの不安定さは詐病であると思われます。意図的に望みを変えていたのです」 彼のただならぬ様子にロザリアにも緊張が走る。 「確かなことは不明ですが、データを見る限りアルフォンシアとアンジェリークの信頼度は200と最高値です。恐らく何らかの理由があってのことでしょう。 そこまで言うと、エルンストは左手で眼鏡を押し上げた。 「それも、もう限界のはずです。すでにアルフォンシアには相当な負担がかかっていると思われます。そう長くは持たないでしょう」 不安そうに瞳を曇らせてロザリアが訊く。 「…最悪の場合、アルフォンシアの消滅」 愕然とロザリアが呟いた。 前代未聞の事態に、ロザリアは明らかに動揺した。 「どうすれば良いのか、ご存知ですの?」 一縷の望みをかけて聡明な彼に尋ねる。 「アルフォンシアを説得し、この緩慢な自殺行為を止めさせれば収まるはずです。多少の反動はやむを得ないでしょう。今まで我慢をしていた分、 それを聞いてロザリアは、ほっとと息を吐いた。 「ではアンジェリークに説得してもらえばよいのですわね」 唇に笑みが戻る。 「ですがアルフォンシアの行動がアンジェリークのためであるのなら、彼女自身にも女王即位に対する抵抗があると考えるのが自然です。 だが彼にはアンジェリークの気がかりが何なのか検討もついていなかった。 「そう。それなら私の方から話を聞いてみましょう」 だから彼女の申出はエルンストにとってありがたかった。 「ありがとうございます。助かります」 レンズの向こう側の瞳が少し穏やかになって、ロザリアもにっこりと微笑んだ。 薔薇のような方だ、とエルンストは頭の片隅で思う。 「では私はこれで。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」 彼を引きとめたロザリアは部屋の奥へ行ったかと思うと、すぐに戻ってきて彼に手渡した。 「この間忘れていかれましたわよ? 大事なものなのでしょう?」 それは先日のペンであった。 「ああ…こちらだったのですか。ありがとうございます。どこになくしてきたのかと探していたので」 彼女の笑顔にドキドキしながら、エルンストは不思議そうに訊いた。 「ごめんなさい。 ただ貴方が見た目よりおっちょこちょいなのが可笑しくて」 我慢できない、といった仕草でロザリアは笑いつづける。 「おっちょこちょい、ですか……そうかもしれませんね。昨日の私はどうかしていたらしい…」 と言って苦笑した彼の顔が優しくて、ロザリアはこの青年に好感を持った。 「もう調子はよろしいんですの?」 彼の不調の原因は無邪気に、あでやかに笑った。 「ありがとうございます。では失礼します」 補佐官の執務室のドアを静かに閉めると、彼は大きく息を吐いたのだった。 |
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