恋兎2
 
 雌兎は自分は幸せだと思い込もうとしていました。

 愛する雄兎がいて、自分も雄兎も健康で、衣食住に困ることなく、明日の憂いはないはずだと指を折って確かめます。
 お天道様は空の真上にあり、干し藁で作った巣は暖かくて居心地がよく、今年のニンジンの出来だって甘くて申し分ありません。

 けれど雌兎の心は晴れませんでした。 
 理由は分かっています。雄兎と会えないからです。
 ただそれだけで雌兎の胸は張り裂けそうなほどの痛みを覚えるのでした。

+++

「いい? 私はちゃんと分かってなくちゃいけないわ」

 雌兎はせわしなく巣の中を歩いては呟きました。

「彼には彼の生活があって、それを尊重しなくちゃいけないわ」

 どうやら雌兎は感情を理屈で押し込めようというしているようです。
自分がどれだけわがままなことを言っているのか、雌兎は自分を納得させようとしました。

「私がどれだけ彼を好きだからって、独り占め出来るじゃわけないのよ」

 雌兎のふかふかの耳が、気負ってぴんと伸ばされます。

「私が彼を一番に好きだからって、私のことも一番に想ってくれだなんていう理屈は通らないわ」

 雌兎は、理屈好きな彼に習って客観的に考えます。

「そうよ。私のことを一番に想ってくれないことが私を嫌いになったとイコールになるわけではないわ。彼の愛情を疑ってはダメだわ」

 ようやく救いの言葉を見出せそうになって、雌兎は耐えられずにベッドに倒れこみました。瞳には涙が浮かんでいます。

「でも、頭と心は別なのよ・・・・・・やっぱり会いたいわ・・・」

 雌兎は自分がないものねだりをしてるのが分かっていても、どうしようもありませんでした。
 ぴんと伸ばしたはずの耳は、今はしょんぼりと垂れ下がり、お尻のしっぽはくるんと丸まってしまいます。いつも彼が触ってくれるのが嬉しくて毛づくろいを欠かさない雌兎でしたが、今夜ばかりはそんな気にもなれませんでした。

+++

 その翌日。
 突然雄兎が雌兎を訪ねてきました。

「ずっと会えなくて、ごめんよ」

 雄兎が優しい言葉をかけます。
 ご機嫌になった雌兎は昨夜の事も忘れて笑顔でこう答えるのでした。

「いいのよ。あなたが忙しいのは知ってるもの。こうして来てくれて嬉しいわ」

 こうして今夜も雌兎は『惚れた方が負け』という言葉を思い出しては頭を抱えるのでした。

 

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