<恋兎3>

 

 ベッドに入ってもなかなか寝付けない雌兎は、干し藁の枕をぎゅうと抱きしめると呟きました。
 枕からはお日様のいい匂いがしましたが、雌兎は顔をしかめたままです。

「私ばっかり好きだなんて、悔しいわ」

 もちろん考えていたのは大好きな雄兎のことでした。

「・・・彼もこんな風に私のことを考えてくれることがあるのかしら…?」

 そのまま顔を枕に埋めて、ため息が外に漏れないようにして息を吐きます。
 どう考えても雌兎には、好きという気持ちは自分の方が強く思えて仕方がないのでした。
 そう思うと、彼のちょっとした一言や表情で一喜一憂している自分が情けなく、また、ちっともやきもきしてくれない恋人をズルイと思ってしまうのです。

「…ちゃんと私のこと好きなのかしら?」

 そう呟いてから、雌兎の耳がぴょこんと動きました。
 枕から頭を引き剥がして、ピンク色の鼻をヒクヒクさせています。
 どうやら何かを思いついたようです。
 雌兎はちょこんと首をかしげてみました。

「そういえば・・・いったい彼は私のどこが好きなのかしら?」

 雌兎にはどんどん不思議に思えてきました。
 自分より可愛い兎や性格の良い兎なんてたくさんいるのです。
 それなのに、彼はどうして自分を選んでくれたのでしょう?
 考えれば考えるほど雌兎には分からなくなってしまいました。

 こうなると気になって仕方がありません。
 雌兎はベッドで体を丸めて考え始めました。

「顔…だけは絶対違うわよね」

 ぽむ、と頬に手を当てると雌兎は神妙な顔をしてうなずきました。
 そのままムニュムニュと手を動かして、柔らかいほっぺをこねつづけます。
 雌兎は自分の顔が嫌いではありませんでしたが、可愛いとも思ってませんでした。それに自分より可愛い兎など数えられないほどたくさんいることも知っていたのです。

「じゃあ、性格? でも私はワガママよね」

 雌兎は自他ともに認める甘えん坊でした。だから雄兎がかまってくれない時はふくれもしましたし、淋しい時は我慢できずに淋しいと言ってしまうのです。
 雄兎の前で泣いたのも一度や二度ではありません。
 だから、彼女は自分が性格がいいとは思っていませんでした。

「わかんなくなってきちゃったわ」

雌兎は枕にあごを乗せて、そのまま、ずぶずぶと沈んでいきます。

「彼、もしかして趣味が悪いんじゃないかしら…?」

 小さなほっぺを膨らまして、雌兎は小さく唸りました。
 そのまま目を閉じていると枕から温かさが伝わってきて、いつの間にか彼女は眠りに捕まってしまったのでした。

 

その翌日。

「ねぇ…私のどこが好き?」

 勇気をふりしぼって、雌兎は大好きな雄兎に聞いてみました。
 すると、雄兎は少し困ったような照れたような顔をして言うのでした。

「どこって…全部だよ。 『ここだ』なんて限定できそうにないよ」

 この返事の直後に、雌兎は「…彼の趣味が変で助かった…のかしら?」と小さく呟き、雄兎は雄兎で「君だから好きなんだよ」と口の中で呟くのでした。

 もちろん、お互いの呟き声はとてもとても小さくて、相手に伝わることはありませんでした。

・END・

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