十
晴明は、少女に湯浴みをしてくるように言った。 大蛇の唾液でべとべとになっていた少女は、素直にその命令に従う。 「朝にもう一度迎えに来よう。それまでに仕度をしておきなさい」 ささは、ぴょこりとお辞儀をすると川辺に向かって家を出た。 「さて、俺たちも青蛇殿のところへ行こう」 二人は、元来た道を、牛車を止めたところまで歩いた。 「さきほどは ありがとうございました」 そう言って、深々と頭を下げる。 「ささを湯浴みにやりました。少しお話していただけますか」 青蛇は、朗々と説明を始めた。 「お二人は、蛇女房の話をご存知ですか」 朧な月光が青蛇の頬に当たる。 「人外のものとは知らずに私は女房に恋をして、結婚し、子供を授かった。だがその幸せは人間によって奪われ、女房は光を失った。私は子供を抱えて、そこへ連れて行って欲しいと涙ながらに女房に頼みましたが、彼女はそれを許してはくれませんでした。そして子供も成人して私は 泉の主である白蛇は、あっという間に男を救い出した。 観念した白蛇は、男を自分と同じ蛇にした。 「女房は水神でした。ですが私は鬼にしかなれなかった。神になるには邪すぎた。だから私は神聖な泉には共に住むことが許されずに 鬼になった青蛇は無性に血が啜りたくなり、肉を食みたくなり…と旺盛な食欲に悩まされた。 「ではなぜ最近になって変わってしまわれたのです?」 博雅が、ここ数ヶ月の彼の凶行を口にした。 「ささ、ですよ」 青蛇は短く答えた。 「以前お話したように、女子を育てたことはあっても、ささほどの年齢になる前に外に出しておりました。だがささだけは、あの子だけは残って… 博雅が、青蛇の言葉の意味がわからずに首を捻った。 「毎月、ささからは温かい血の匂いがしてくるのです。その度に、あの子の柔らかな肌が目に入り私は気が狂いそうになる。自分の娘を おおん、と青蛇がむせび泣いた。 「先ほども、劣情に耐えられず、ささの寝所に忍び込み、ひたすら己と葛藤しておりました。いつもは、どうしても我慢できなくなると都にまで 青蛇がまた深々と頭を下げた。 「はて。何のことやら。牛が捨ててありましたのを私は申し上げただけのこと」 晴明が、とぼけた口調で返事をする。 「それでこれから、この身はどうなりましょうか」 不安げに、青蛇が陰陽師に聞いた。 |
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