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二人は、庭園に向かって歩いていた。 「アンジェリーク、育成は順調か? 何か困っていることはないか?」 赤茶けた髪を、日の光に透かしながらヴィクトールは気遣うように、隣を歩く少女を見た。 「はい。大丈夫です。気にかけて下さって、ありがとうございます」 ふわりと微笑む彼女の瞳。 「そ、そうか。…確かにあちこちでお前が頑張っているという噂を聞くよ。だがな、何か困ったことがあれば遠慮なく俺に相談してくれ。 アンジェリークは、困ったような顔をした。 「あ、いや・・・お前が頼りないということではないんだ。誤解しないでくれ。ただ、その細い身体では試験のプレッシャーに ヴィクトールの言葉に、アンジェリークは耳まで真っ赤になった。 「俺だって伊達に歳はくってないつもりだ。経験から言える事もある。だから今回のティムカのように一人で思いつめる前に俺のところに 蚊の鳴くような声で返事をされて、ヴィクトールはぎょっとして彼女を見た。 「ど、どうしたアンジェリーク? ずいぶん顔が赤いぞ。…ああ、少し日に当たり過ぎたのかもしれんな。すまない。テラスで少し休もう」 アンジェリークの赤面を日射病と勘違いしたヴィクトールは、パラソルのあるテーブルを選んだ。 「好きなものを注文するといい。ここはケーキが上手いと評判らしいからな。お前も甘いものが好きなんだろう?」 くすっと笑って、自分はブレンドを頼む。 「気分はどうだ? 大丈夫か?」 運ばれてきたオレンジタルトに嬉しそうな顔をする彼女を見て、ヴィクトールは苦笑した。 「お前といると、なぜだか気持ちが柔らかくなるよ。…安心するんだろうな。その笑顔に。 それが女王の資質なのかもしれんが… 庭園は気持ちのいい風が吹いていた。 「こういう時間を持つのも、たまにはいいもんだな」 アンジェリークの言葉に、ヴィクトールが破顔した。 「お前は優しい娘だな、アンジェリーク」 彼はたくましい両腕を天に向け、大きく伸びをした。 「リラックス・・・つまり緊張を解いて くつろぐ状態になればいいんだが。ティムカが好きなことをしてやるのが一番だと俺は思う」 アンジェリークの台詞に少し驚き、そしてヴィクトールは苦笑した。 「いや、伝統料理になると俺はあまり・・・。だがスープなら俺もよく作るからな。何か手伝えるかもしれん」 思わず口にしてしまい、アンジェリークは慌てて失礼な態度を謝る。 「はは、なんだ そんなに意外か?」 アンジェリークは複雑そうな顔をする。 「おいおい、俺のエプロン姿なんて想像してるんじゃないだろうな。 俺は軍でよく野営をしてたから料理には慣れてるってだけだよ」 ようやく合点のいった顔をした彼女を、まだヴィクトールは面白そうに見つめる。 「もっとも、見た目はお世辞にも良いとは言えない代物だがな。味は保証するぞ。俺の作る豆のスープは部下からも人気があった」 そんな のん気な会話の途中に異変は起こった。 「…っく」 ヴィクトールが、ひゃっくりをし始めた。 |
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