<移り香>
ある晴れた日の午後。風が緩やかに吹き、レースのカーテンを躍らせる、そんな穏やかな時間。 アンジェリークの部屋には、一人の客人がいた。 健康そうな褐色の肌。すらりとバランス良く伸びた長い手足。利発そうなスミレ色の瞳。 ―――――――女王候補の一人、レイチェルである。 はきはきとよく喋る少女だが、面倒見が良く、人懐っこい性格で、時々こうしてライバルの部屋に訪れては会話を楽しんでいく。 「ねぇ、アンジェ。最近、王立研究院に通ってるみたいだけど…」 紅茶が淹れられたカップを持ち上げて、レイチェルがアンジェリークに話し掛けた。 「どうしちゃったの? アルフォンシアと上手くいってないの?」 アルフォンシアとは宇宙の意思―――聖獣のこと。女王候補にしか見ることが出来ず、交信することも出来ない。 「ううん。そうじゃないわ。でも……」 アンジェリークの声はいつも優しい。 「でも?」 レイチェルが先を促すと、アンジェリークはうっすらと頬を染めた。 「ちょっと気になって……」 照れを隠すように はにかんだアンジェリークを見て、レイチェルはふーんと思う。 「アルフォンシアが? でも気をつけたほうがいいよ。アナタ最近、育成全然やってないじゃない」 確かに最近のアンジェリークは育成することを中断していた。 「うかうかしてるとワタシ、すぐに追いつくんだからね。いつまでも このままだと思ってたら大間違いなんだから」 きらきらとした瞳が不敵そうに笑う。 「そうね。心配してくれてありがとう、レイチェル」 にっこりと笑ってアンジェリークは礼を言った。 「だってアナタは ワタシのライバルだもん。いい勝負したいじゃない」 困ったような苦笑をして、アンジェリークは少し首をかしげる。 「まったくアナタって本当に おっとりしてるんだから…。嫌いじゃないけどね。アナタのそーゆーとこ」 おくびれもなくそう言うと、レイチェルは紅茶を飲み干し、部屋の主に別れを告げた。 |
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