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「今週の2人の成果は以上です。最近はアンジェリークの育成が緩慢になりつつありますが、それでもレイチェルとの差は依然としたままです」 透き通るブルーに統一された落ち着いた一室では、王立研究院の主任が一週間分のデータを女王補佐官に報告していた。 「エルンスト主任、アンジェリークの育成が緩慢になっていると おっしゃいましたわね。それはどうしてですの?」 目の前の女王補佐官――――ロザリアからの質問を予想していたのであろう。エルンストは一枚の紙片をロザリアに手渡した。 「もちろんそれは育成の放棄ではありません。実際、アルフォンシアが不安定な状態にあるため、望みに変化が現れているせいです。 そこまで言って、エルンストは眼鏡を中指で押し上げた。 「アルフォンシアが不安定・・・、ですか? それは心配するほどのものでは ありませんの?」 途端にロザリアの顔が曇った。 「まあ・・・では、何か問題が起きているのですね」 そこまで言うと、ロザリアはにっこりと微笑んだ。 「失礼・・・」 彼が拾い上げようとする前に、ロザリアは 上等な絨毯にその身をうずもらせたペンを拾い上げてエルンストに手渡す。 「はい」 とたんに、なんともいえない良い香りがエルンストの鼻をかすめていった。 「ありがとうございます。・・・・・・素敵な香りですね」 香水をつけてらしたんですか、などと訊くほど野暮な歳の取り方はしていないらしい。 「まぁ・・・嬉しいわ。貴方からそんな言葉を頂くなんて、思いもよりませんでしたもの」 少女のように頬をバラ色に染める補佐官を、くらくらする思いでエルンストは見つめた。 どうして今まで気づかなかったのだろう。 エルンストは必死になって冷静になるように努めたが、結果は逆効果であった。 「あの・・・どうかしまして?」 心配そうに見つめてくる蒼い瞳が、さらに心臓を早鐘のように鳴り響かせる。 「い、いえ、お気になさらず・・・そ、それでは失礼します・・・」 ようやくそれだけ言うと、耳まで赤く染めたエルンストは補佐官の部屋を逃げるように出て行った。 「・・・・・・わたくし、おかしなこと言ったかしら?」 彼が出て行ったドアをみれば、その床には先ほどひろったばかりのペンが所在なさげに転がっていた。 |
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