SCIENCE     Vol.1

 

――――――時代は2085年。人類は人口爆発から逃れるため人工惑星を開発する。同年、打ち上げに成功。こうして神をもしのぐ驚異的な科学力で
前代未聞の                             
大規模な              
歴史に残る
大移動をやってのけたのである。神でさえ予想しなかったであろう惑星の創造は深い闇へ光をもたらしたのであった――――――――

 

モニターテレフォンのベルが鳴り響く。
ここは太陽系第3惑星地球の、ジャパンに属するT地区にあたる。
もっと具体的に示せば神楽さんのお宅だ。

ぴっと神楽渚が、眠そうな目をこすりながら、受信ボタンを押した。まだ、お気に入りの青色のパジャマを着ている。
「もしもし、おはようございます。草薙ですけれど…」
「はらぁ…あひらくん? おあよー…」
電話越しに聞こえてきた若い男の声を遮り、彼女はあいさつをした。寝ぼけて舌も良く回っていなかったけれど。
親しそうに話す彼の名は草薙晃(クサナギ・アキラ)。実は神楽家の隣人の息子である。
「あ、渚? 寝てたの? ごめんごめん。でも、もう10時だぜ。今から出かけられるか? ほら、今日渚の誕生日だろ? 
プレゼントやりたいから≪第2惑星−アースU−≫いこーぜ」
≪第2惑星≫とは、近年打ち上げられた人工惑星のことで、第2の地球から名づけられた。
「んじゃ、5分後に迎えに行くから」
それだけ言うと、晃はさっさと通信を切った。

彼らの関係は一般に言う幼馴染、である。二人の母親同士が仲が良く、生まれたときから一緒だった。
今までそれという感情もお互い持っていなかったが、最近、晃の方は渚を意識するようになった。

特に美人なわけではないが、よく笑うところがかわいい。でもどうしようもないくらいドジで。
幼くて、目が離せない。
(一緒にいて暇しないし)
少し照れくさくなって、晃は思考を止めた。
落ち着いて、息を吸う。
「渚ーっ! 迎えにきたぞーっ」
「はーい。お母さん行ってきますっ!!」
軽い足音が聞こえてきて、渚が飛び出した。今日で17歳になるというのに、幼さが抜けない笑顔。
セミロングの黒髪が、風に流されて揺れている。
「ね、晃君。今からどこに行くの?」
無邪気な声が背後から聞こえてくる。心地良い、ソプラノ。
「Sデパート。でっかいヌイグルミ見つけたんだ。渚にあげようと思って」
「わあ。ありがと、晃君」
いつもの様子で2人はシャトルに乗り込んだ。

商店街は行き交う人でごったがえしていた。
子供を真中に歩いていく家族、腕を絡ませて前傾姿勢で進む恋人達、似たようなファッションで大声で笑い会うグループ達…。
それぞれの笑みが集まっている。
だが、それも一瞬にして闇に呑まれた。
突然の暗闇。
目を閉じているような錯覚に陥る。
長い沈黙――――――――――。
停電ならすぐに予備の発電機が作動し、照明はつくだろう。誰もがそう思った。

だが、あまりに時間がかかりすぎている。
フロア内にざわめきが起き始まった頃、爆風と爆音が彼らを襲った。
けたたましい非常ベル。
一触即発の状態だった客たちが、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。
追い討ちをかけるように、また爆音。
「ちっ」
晃は小さく舌打ちした。
爆弾テロリストだ。いつでも道理のわからぬ輩はいる。晃はとっさに渚の腕をつかみ出口へと導いていた。
そのころになって、ようやく防御システムが作動し、幾体かの警備用ロボットが出てきて微粒子による結界を張る。
客をかばうように壁を作り、出口へと誘導していく。結界が張られた今、物理的攻撃は不可能なのだ。
「あっ…!!」
2人がデパートから出たときだった。渚の足がふいに止まる。
「どうした?」
怪訝そうに晃が振り返った。
テロの仲間がもし潜んでいたら……晃は周囲に気をつけながら、渚の視線をたどった。
10歳くらいの少年が一人、壁に寄りかかって立っていた。物憂げに顔をうつむかせ、何かを心待ちするように。
けれど、影を落として。

「君、ここは危ないわ。早く避難して」
小走りに寄って、渚がその少年に話し掛けた。こういうのは放っておけない性質である。
「ううん…。僕は大丈夫。……お母さんを待ってなくっちゃ」
自分に言い聞かせるように、その少年は呟いた。
そんなごく自然の仕草に、晃は何か違和感を覚える。
深い闇色の瞳。危険な因子を孕んでいるかのように光を吸い込む。
「だけど、母さんも逃げていると思うぜ。後で捜せばいいだろ」
普通はここまで親切にしてくれる好青年に子供はなつくものである。
しかし、この少年は違った。
「うるさいなぁ。もう、放っておいてよ。僕はここにいたいのに…。…まあ、凡人には僕の凄さは分からないだろうけど」
生意気なセリフを発しながら前髪をかき分けた。
そして渚の襟首を、晃の腕の裾をつかむと瞬時にして消えた。

いや、移動したのだった。

 

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