雨。

さああああああ。
さああああああ。

――――みゃああ。
――――みゃああ。

「あれ?」

――――みゃあ。

「どうしたの、おまえ? ……捨てられちゃったの?」

――――みゃあ。

「あたしと、おんなじ? ひとりなの?」

 ――――みゃああ。

「お腹へってるの? 寒いの? …ああ、濡れちゃってるもんね。
お前の飼い主、ひどいね。こんな雨の中に捨てるなんて」

 ――――みゃあ。

「……ほんと、ひどいね…」

 ――――みゃあ。

「待ってな。今、あたしがそこの駅前で、たいやき買ってくるから…って
ココじゃ濡れちゃうよね。 うーん…」

 ――――みゅう。 みゅう。

「とりあえず、ベンチの下に置いといてあげる。ちょっとはマシでしょ? 
すぐ戻るから、そこでいい子にして待ってなよ」

 ――――――みゃああ。 みゃああ。

さああああああああ。
さああああああああ。

――――――にゃああ。
――――――みゃああ。

「……っかしーなぁ…声はするのに」

 ――――――みゃあ。

「やっぱいるんじゃん。 おーい、どこだー? いたら返事しろぉぉ」

さああああああああ。

「……おーいってば…」

 ――――――みゃあ。

「お。よしよし。ここら辺から声がしたぞ……と見つけた! 
こんなとこにいたのかよー。そりゃ確かにここなら雨に濡れないけどさ。
人にも見つからないぞ、こんな場所…ったく…」

 ――――――みゃああ。

「お前、ちっちゃいなー。震えてんじゃん。あ、なんだよ。
別にいじめやしねえよ。おい、こら…」

 ――――――にゃー。にゃー。

「はん。お前の爪なんて痛くねぇよーっだ。…ほら、じっとしてろよ。
こうすりゃ、少しはあったかいだろ?」

 ――――――みゃあ。

「ごめんな。俺もずぶ濡れで。ちゃんとカサ持って出てきたんだけど、
彼女にあげちゃったんだよ。しょーがないじゃん? 女の子濡らすわけにもいかないし」

 ――――――にゃー。

「アイツって、ああ見えて意外と抜けてっからさぁ…別れ話切り出すのに頭一杯だったんだろうけど
…なぁ? 俺には分っかんねーよ。優しくて何がマズかったんだ?」

 ――――――みゃあ。

「……女の子は俺には複雑すぎるよ。まったく……」

さあああああああ。
さあああああああ。

「あっ…」
「え?」

――――――みゃあ。

「こ、こんにちは」

「あ、どうも…」

「あの、そのこ、飼ってくれるんですか?」

「え、あ、いや…鳴き声が聞こえたから見てみただけで、今は何とも…」

「あ、そうなんですか」

「君の方は? …それとも捨てた方?」

「いえ、私も同じでさっき見つけて、今たいやき買って来たんです。お腹すいてると思って」

 ―――――――みゃあ。

「あー、なるほど。優しいね。俺そこまで気が回んなかった。
…もっとも、こんな濡れネズミじゃ店なんて入れないけど」

 ―――――――みゃあ。

「あのっ…良かったら、たいやき食べます? 丁度二つ買ってきてるし、
……甘いもの嫌いじゃなければですけど…」

「え!?でも誰かにあげるために買ったんじゃないの?」

「いえ、一つだけ買うのがカッコ悪かったから二つ買っただけなんで」

 ――――――みゃあ。

「このこに一匹は大きいだろうし」

「いいの?」

「ええ。どうぞ」

「ありがとう。なんか悪いね。初めて会ったのに」

「いいえ、そんな…気にしないで下さい」

 ――――みゃあ。

「屋根のあるとこに行きませんか。花壇の向こうに屋根つきのベンチがありますから」

「あ、うん。そうしようか」

さあああああああああああ。
さあああああああああああ。

「はい。どうぞ」

「ありがとう」

「おチビちゃんにも。はい」

 ――――――にゃー。

「…うまい」

「良かった。……カサ、持ってないんですか?」

「ん。…正確には持ってたんだけど、人にやった」

「優しいんですね」

「馬鹿なだけだよ。自分をふった女の子に優しくしたって、どーしようもないのに」

「ふられたんですか?」

「そ。好きな人が出来たんだってさ。俺は別れたくなかったけどね。
しょうがないよな、こればっかりは。
……そう言ったら、俺は『優しすぎるから』って泣きそうな顔された」

「…哀しいですね」

「あ、ごめん。変な話聞かせて。…やっぱ今の俺イケてないな。
頭回んないみたいで。ごめんな。愚痴なんか言って」

「いいえ、そんなこと…今日のあたしも、似たようなもんなんで。お互いつらい一日ですね」

「そうなの?」

「…ずっとメールのやり取りのあった男の子がいて…『会いたい』って言われたんです。
あたし可愛くないから、やだって言ったんですけど、『そんなの関係ない』って言ってくれて」

「うん」

「今日、待ち合わせして、ずっと待ってたんです。そしたらケータイに電話がかかってきて
『ごめん、遅れる。今どこ?』って。待ち合わせの場所だよ、って教えて、その後も待ってたんだけど
全然来なくて。…あたしから電話したら急に『行けなくなった』って」

「……ひでーな。遠くからそいつは一方的に見てたんだ」

「うん。…雨の中待たせて、こんな仕打ちひどいですよね。そう思ったら悔しくて…
いいように騙された自分も情けなくて…。ばかだったなあ、って思います。
その人のこと好きになりかけてたから余計に。
…あははっ…昨日まで舞い上がってた自分が許せないですね」

「でもそれは君が悪いわけじゃないじゃん。全面的にその男が悪いと思うな。最低だよ、そんな奴」

「うん。でもやっぱり、見抜けなかった自分も情けなくて。泣けてきますよ。男性不審になりそう…あはは」

「…かわいそうな一日だったね」

「お互いじゃないですか」

「そうだなぁ…お互いかわいそうな一日だったねえ」

 ―――――――にゃああ。

「…そうだな、お前もだ。偶然にも不幸な二人と一匹がここで巡り会ったわけだ」

「すごい偶然ですね」

「三文小説並みだね」

―――――――にゃあ。

「ここまで来ると、こいつだけでも救ってやりたいが…俺の親がネコ嫌いなんだよなぁ…」

「…私のところもペット禁止なんです。マンションだから」

「困ったね」

「はい…」

「このまま置いてったとして、誰か拾ってくれるかな?」

「どうでしょう…こんな雨じゃきっと外出してる人も少ないですし、期待できないです」

「う〜ん、そうだよなぁ。しかも悪いことに明日も雨なんだよなぁ」

「……誰かに拾ってもらわないと死んじゃいますよね」

「だろうねえ。考えたくもないけど」

さあああああああ。
さあああああああ。

「…あたし、この子が拾われるまで毎日ここに来ることにします。
家には連れて行けないけど、ご飯なら持って来られるし」

「うん。俺もおんなじこと考えてた。それしか出来ないけど、それでもやらないよりずっといいと思う」

「それじゃ、この子どこに置きましょう?」

「とりあえず雨風の当らないところで、野良犬とかに襲われないとこだね。…あそこでいいんじゃない?」

「そうですね。そこなら寒くもないでしょうし。それじゃ、あの穴の中に入れときましょうね」

「うん。分かった。…また明日来るから。たいやき、ごちそうさん。俺、沢田一っていうんだ」

「あ…あたし、高橋あずみです」

「よし、それじゃ、また明日ね。高橋さん」

「はい。…また明日」

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