ある婦人画の恋

 


また、あの人が来たわ。

相変わらず綺麗な金色の巻き毛。澄んだ鳶色の瞳。
なんて優しく笑う方なのかしら。

まっすぐにこちらに向かって歩いていらっしゃる。

ああ、どうしましょう。
今日の私おかしくないかしら?
あの人が目の前に立っても普通にしてられるかしら?
いつもみたいに笑えるかしら?

毎日この瞬間が一番ドキドキするわ。
もう何度目か分からないのに、私の心臓はちっとも慣れてくれやしない。

だってあの人ったら、あんなに情熱的な眼差しで私を見るのだもの。
私じゃなくたって、きっと女ならみんなドキドキ落ち着かなくなるわ。

そうよ。だってあの人はあんなに魅力的だもの。

「やあ。また来てしまったよ」

まぁ。そんなに嬉しそうに笑わないでちょうだい。
こっちは心臓が鳴りすぎて痛いくらいなのよ。
もうこれ以上ドキドキしたら、きっと私の心臓は口から飛び出してしまうわ。

「少しでも時間ができるとね、つい君のことを考えてしまう。もう癖だと言っていいくらいだ」

嬉しいわ。
でも私は一日中あなたのことを考えているのよ。

・・・なんて、恥ずかしくてあなたには言えないけれど。
もし言ってしまったら、あなたはどんな顔をなさるのかしら?

――――喜んでくださるかしら?

「最近仕事が順調なんだ。前に話したかな?僕は売れないシナリオライターで今は恋愛ものを書いてるけれど、この間、初めて僕のファンだと名乗る人から手紙をもらったよ」

まぁ、スゴイじゃない。
あなたの才能が認められつつあるのね。
素敵な知らせだわ。

「・・・君のおかげだ」

え?

「君と出会って、僕は初めて恋を体感できた。今までの言葉だけのものじゃない。実感を伴った恋だ」

そ、それって、つまり・・・。
ああ、お願い。待って。それ以上言わないで。幸せすぎて目眩がしそうなの。
これ以上聞いたら、私、恥ずかしくて倒れてしまうかもしれないわ。

「君は・・・笑うかな。僕を愚か者だと」

そんなこと!

「あ、ごめん。もう行かなきゃ。また明日来るよ。それじゃ」

あ・・・行ってしまわれたわ。
はぁ。まだ胸がドキドキしてる。この音、彼に聞こえなかったかしら?

それにしても・・・愚か者だなんて・・・。

そうね。そうかもしれないわ。
だって私はもうすでに死んでいて、一枚の絵でしか存在しないのだもの。
生身の身体をもたない私に恋をするなんて、愚かだわ。

でも人間に恋をする絵なんて、もっともっと相当の愚か者よ。

・・・それでも私、本当に彼に恋をしているのだわ。
せめてこの気持ちだけでも、あの人に伝えられたらいいのに・・・。

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