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「あー食った食った。もう食えねーや」 もう動けないとばかりに、彼はそのまま後ろ向きに倒れた。 そのまま何気なしに横に視線をやると、アンジェリークの足が目に入ってあわてて体ごと向こうを向く。 「大丈夫ですか?」 素直に謝る彼女に呆れて、ゼフェルは上体を起こした。 「…悪い。そーじゃなくてさ…オメーがシートにこだわった理由が分かったんだよ」 ゼフェルが、草の先端を撫でるように手を動かした。 「確かにこれじゃあスカートには痛ぇーよな」 アンジェリークが恥ずかしそうにスカートの裾をきゅっと握る。 「オメーもこんなときまでスカートはいてくんなよなー。ちったぁ考えろよ」 その言葉にアンジェリークは泣きそうになりながら、小さな声で何かをぽそぽそと言った。 「ばっ、バカヤロー!! んなこっぱずかしい事言うんじゃね―よ!」 そうしてまた、ふてくされたように横になった。 (「今日のためにお気に入りの服を着てきた」なんて…ちくしょう、かわいいじゃねーか…っ!) このままぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるが、それを実行できるほど自分は器用ではない。 「まあ…その、似合ってるぜ……」 小声でこれだけのことを言うのが精一杯である。 「ゼフェル様…?」 しばらくしても、一向に動かない彼に不安になってアンジェリークは声をかけた。 「ゼフェ……まぁ」 背中から覗き込むようにすると、彼の寝顔が目に入った。 (起こしちゃ悪いわよね) そう思って、アンジェリークは声をかけるのはやめたが、寝顔を見続けるのは止めない。 無防備な寝顔。 「おやすみなさい、ゼフェル様…」 気持ち良さそうに寝ている彼を起こさないように気をつけながら、アンジェリークはそっと彼から離れた。 ゼフェルのマントからは、よく晴れた日の、おひさまのにおいがした。 「なんか、安心しちゃうな…」 そう言って、彼女も目をつぶる。 □□□□□□ 「…まったく見せつけてくれるぜ」 2人を夢の世界から引き戻したのは、ひづめの音と低い男の声だった。 「あん…?」 空はすっかり茜色に染まっている。夕方であった。 「こんなところまで来て何やってるんだお前達は」 年長者の威厳で口調が多少高圧的になる。 「充電だよ。オレの動力源はソーラーパワーなの。オッサンには難しいかもしれねーけどな!」 減らず口なら負けないオスカーである。 「お嬢ちゃん、デートの間中放っとかれて淋しかっただろう?今度は俺が完璧なエスコートを…」 オスカーの台詞を遮って、アンジェリークは珍しく相手の言葉を否定した。 「私も光合成をしてたので、お互いさまなんです」 にっこりと笑ったアンジェリークに、オスカーはマヌケな疑問符を口にする。 「…つまり2人はデートじゃなくて、日向ぼっこをしにきてたと言うんだな」 ようやく少し自分のペースを復活させたオスカーは、鼻で笑った。 「とにかく、もう日が暮れる。遅くなる前にお嬢ちゃんをちゃんと部屋まで送るんだぞ」 ゼフェルの台詞に呆れたようにオスカーが肩をすくめた。 「『オレたち』ね…。とにかく俺は今日はこのまま帰るから、くれぐれもお嬢ちゃんに危ないことはさせるんじゃないぞ」 オスカーは、そのまま愛馬に乗って、もと来た道を帰っていった。 「ちっ…最後に嫌な奴が来やがったが、…帰るか、アンジェリーク」 アンジェリークはマントのついた土を良くはらって、ゼフェルに返した。 「ゼフェル様、マントをありがとうございました」 だが、彼は受け取ったマントをつけようとしない。 「ゼフェル様?」 アンジェリークは褒められているのは分かるのだが、どんな顔をしていいのか分からない。 「だからさ…またこーしてオメーと遊んでやってもいいぜ」 その言葉が、次のデートの誘い文句だと分かってアンジェリークは嬉しそうに返事をした。 「はい! また誘ってくださいね!」 ゼフェルはその笑顔を見て、今度は何を作ろうかと次の口実を考え始めたのだった。 END |
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