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「…でだなー、よく見てろよ。こうして…それっ」 「きゃー。すごぉーい!!」 2人は今、遠乗りの丘まで来ている。 遠乗りの丘に登ると、邪魔なものはすべて眼下にあるため、空を独占できる。 「わぁ、ゼフェル様 すごいですね!」 手放しの賞賛をもらって、彼は上得意である。 「文字だって書けるんだぜ」 そう言って、今度はピンクの雲の筆で、『アンジェリーク』と器用と書き綴る。 「オメーもやってみるか?」 軽い気持ちで言ってみると、瞳を輝かせてアンジェリークは振り向く。 「ほら、渡すぞ」 だが初めて握るコントローラーは勝手がよく分からない。 「あ、バカ! そのままじゃ落ちるぞ」 焦りも加わって、余計に上手くいかない。 「ちっ…」 ゼフェルは軽く舌打ちすると、コントローラーを握るアンジェリークの手に自分の手を重ねた。 「いいか、こっちの左のがエンジン調節で、右のこっちが機首の角度なんだから、あとはこのレバーで翼の向きをこうしてだな…」 そう説明しながら、彼女の指に操作の感覚を教え込む。 「もう覚えたかよ?」 蚊の鳴くような声でアンジェリークが返事をして初めて、ゼフェルは自分がとんでもなく彼女の近くにいることに気がついた。 「ほらよっ」 途端に恥ずかしくなって、ゼフェルは乱暴に手を離した。 「オメーの手って、小ちぇーなぁ」 その台詞で、今度こそアンジェリーク号は墜落した。 □□□□□□ 墜落した飛行機を回収すると、2人は昼食にすることにした。 「あ…どうしよう…」 アンジェリークはうなだれて答えた。 「はぁ…シートねぇ…」 普段から草の上に寝転がるゼフェルには、どうでもいい事のように思えるが、彼女の気落ちのしようがすごいので、 「んじゃ、これ貸してやるよ」 そう言うと、ゼフェルは己の肩からマントを取り外し、アンジェの足元に敷いた。 「そんな! ゼフェル様のマントが汚れてしまいます」 好意が直接には彼女に伝わらなくて、ゼフェルは苛立った。 「は、はい。あの…ゼフェル様…」 その一言で、彼の苛立ちはどこかへ飛んでいってしまった。 「べ、別に持ってるから貸しただけじゃねーか。こっ、こんなんで礼なんか言うなよなー。 それより、ほらっ、メシにしよーぜ」 ゼフェルは どすん、と胡坐をかいて、内心楽しみにしていた彼女の手作り弁当を見た。 「すっげー…うまそーじゃん」 蓋を開けたバスケットの中には綺麗に並べられた彩りの良いおかずで溢れるようだ。 「なかなか うめーぜ」 安心したように胸をなでおろすと、アンジェリークは彼のために冷たいお茶をついだ。 「あれ、これカレー味じゃん」 驚いた顔で、ゼフェルが思わず声に出してしまう。 「オメーってトロいからさぁ、料理なんて出来んのかよって心配してたんだけど、結構やるじゃねーか」 両頬いっぱいに詰めて、ほお張りながら彼は言う。 「ありがとうございます」 幸福感に満ちた、最高の昼食だった。 |
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