雪に願いを

 

どんなに宇宙の危機であろうが、雪は降るときは降るのである。

魔道は日に日に宇宙を侵食していったが、アンジェリークの一行は目の前の手がかりをたどる他に為す術を知らなかった。
今は、石化してしまったロキシーを戻すために宝玉を捜している。

一つ目の「金の宝玉」。

それを手にするためにはセキレンの試練を受けねばならず、アンジェリークは情報を得るために「白き極光の惑星」にある<風花の街>を訪れた。

「おい、なんか天気、ヤバそーだぜ。降ってくるんじゃねぇのか?」

灰色の空を見上げて、鋼の守護聖が宿に入ることを提案した。
確かに、今にも降り出しそうな重い雲が垂れ込めている。
パーティー全員がその意見に賛成して宿に到着したとたんに、雪が降り始めた。

「お客さん、運がいいですねぇ。今夜は大雪ですよ、きっと」

店主が愛想良く言った。
その言葉に、仲間たちは疲労と安堵の色を顔に出したが、言葉には出さずにそれぞれ充てられた部屋に入っていく。
連日の長旅で体力的にも精神的にも疲弊していたのだろう。
今夜の少し早い宿入りは、ちょうどいい中休みと言えた。

 

「雪・・・こんなに降るのは初めて見るな・・・」

暖炉の火がともった部屋の中で、アンジェリークはじっと外を見つめていた。
絶え間なく降りつづける、白い羽根のような雪たち。

はらはら、と舞い落ちる。
窓枠に触れては、消えていく。

「きれい・・・」

ぼんやりと窓の外を見ながら、アンジェリークは呟いた。

「ゼフェル様、見てるかなぁ・・・?」

見てないだろうな、と確信に近い結論を出してから彼女は苦笑した。
窓枠に頬杖着いて雪を鑑賞する趣味があるとは、とうてい思えない。
女王試験の頃から彼を見てきた自分だから、自信がある。

「でも、見ないと もったいないよね・・・」

彼の出身惑星は工業惑星だと聞いたことがある。
あまり雪の降らない土地ではなかったか。
彼にはあまり馴染みのない景色のはずだ。

「・・・どうしよう、一緒に見たくなってきちゃった・・・」

自分のわがままさに苦笑しながらも、思ってしまったものはしょうがない。
何とかして、あの鋼の守護聖と一緒に雪を見る口実はないものか。
アンジェリークは、窓の外に立つ杉の木が雪の重さに耐え兼ねて枝をしならせた音を聞いた。
ざざざっ、と雪が滑り落ちる。
その音につづけて、暖炉の薪がはじけた。

「・・・思いつかないわ。しょうがない、木のせいにしちゃおっと」

いても立ってもいられなくなったアンジェリークは、そわそわしながら廊下に出た。
幸運なことに、すぐに目的の人物の後姿を発見する。
アンジェリークは思い切って声をかけた。

「あの、ゼフェル様・・・!」
「おう。な、なんだよ、そんな思いつめた顔して」

いきなり呼び止められた彼は、必死な顔で自分を見つめるアンジェリークに気おされた。

「雪を、お部屋で見させてくれませんか?私の部屋、大きな木があってよく見えないんです」

新宇宙の女王は、あまり嘘をつくのが上手ではないらしい。
部屋の前に大きな木があるのは本当よね・・・と自分に言い訳をしつつも真っ赤になる顔を止められなかった。

「はぁ?雪?」

何を言われるのかドキドキしていたゼフェルは、肩透かしを食らったような声を出す。
それも仕方がないことだろう。
目の前のアンジェリークは、今にも泣き出しそうなほど思いつめた顔で自分を呼び止めたのだ。
しかも顔を真っ赤にして。
期待するな、という方が酷である。

(オレはてっきり・・・ちぇっ)

自分の予想がはずれたことが恥ずかしくて、更にそれを期待していた自分がカッコ悪くて、ゼフェルまで顔を赤くする。
お互いの内心を知らない2人は、赤面して数秒間 沈黙していた。

「・・・おめー、そんなの見てえのか?・・・まぁいいぜ。今なら部屋に誰もいねえし」

ぎこちない沈黙を破ったのはゼフェルの方だった。
その言葉を聞いた途端、アンジェリークは喜びに目を輝かせて礼を言う。

思い切って言って、良かった。

「礼なんかいいって。・・・んじゃ、行こーぜ」

一方、ゼフェルは思いの他 彼女が喜んでくれたので、ちょっと嬉しい。

しかも、よく考えてみれば他にも部屋をあてがわれた仲間は大勢いるのに、彼女はわざわざ自分を指名してきたのである。
あの長身野郎のアリオスでなく!このオレに!

ニコニコしているアンジェリークの横で、ゼフェルは彼女に見えないようにして笑った。

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