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  「あ、あの…っ、アンジェリーク!」

 彼女の柔らかい手が無邪気にティムカを引っ張っていく。
 その力は決して強くはなかったけれど、ティムカは振り払うことは出来なくて結局彼女の思うままに引きずられていた。

 まず連れて行かれたのは庭園だった。

「いらっしゃいませー! 毎度、どーも〜。いや〜可愛らしカップルさんやなぁ。よぉ お似合いでっせ♪」

 目に眩しいほどの明るい緑色の髪をした商人が、上機嫌に彼らを出迎える。
 もともと人懐っこい性格のせいか彼のお世辞は厭味ではない。

「こ、こんにちは…」

 少年は慌てて商人にぺこりと頭を下げた。
 何となく先日の一件以来、胸にわだかまりがあるせいで態度がぎこちなくなる。
 けれどそんなティムカには気づいていないのか、商人はニッカリと笑った。

「ティムカさん。彼女へのプレゼントやったらオススメがございまっせ! その名も…!」
「ああああの違うんです!」

 もったいぶって息を吸い込んだ商人を見て、ティムカは両手を振って否定する。
 そのすばやい否定の言葉で商人の勢いはぷしゅううう、と しぼんでしまった。
 それでも気分を害した風もなく、苦笑して2人を見る。

「あら〜ちゃいますのん? ほんならご用向きはなんでしょ? 何か探しもんでっか?」

 商人の問いに、ティムカは困った顔をしてアンジェリークを見る。
 そんな彼とは対照的に、アンジェリークはとても嬉しそうな顔と弾む声でこたえた。

「お菓子を下さい。 チョコとかキャンデーとか…遠足用のものを!」
「はいな!ほんならバナナもつけとかんとな。よく言うやろ? 『バナナはおやつに入りませ〜ん♪』って。ほらほら、好きなもん選んだってや」

 隣で呆気にとられているティムカを尻目に、商人はあれこれと商品を勧め、あっという間にアンジェリークの両手にはお菓子が山積みされた。
 そして代金を払うと、元気よく礼を言う。

「遠足かあ…よろしいなぁ。あの許された小遣いでギリギリまでおやつを買うために、さんざんない頭しぼったわー。懐かしいなぁー」

 やたら遠い目をして懐かしいと連呼する商人であった。
 すると彼女は何か気づいたような仕草でちょこん、と首を傾げると背の高い彼の瞳を見上げた。

「商人さんも一緒に『子供ごっこ』しますか?」

 ――――ティムカはようやく理解した。
 アンジェリークは「子供らしくない」とぼやいた自分のために「子供らしい」過ごし方の実践をしようとしているのだ。

 その一環として遠足を思いついたらしい。
 遠足に行くにはおやつは必要だ。だから買いにきた。

 彼女の思考をたどればたどるほど、それは単純明快で、優しさに満ちていて、彼の頬は緩まずにはいられなかった。

(なんて素敵な人なんだろう)

 胸に込み上げてくる 心地よい 感情。

「『子供ごっこ』? そりゃまた随分面白そうなこと考えたなー。仲間に入れてもらいたいけど、うーん…今回は遠慮しとくわ。今日は店の営業日やし、
急に店じまいするわけにもいかんやろ? せっかく来てくれたお客さんをガッカリさせるわけにはいかへんもん。2人で楽しんで来とってや」

 残念そうにそう言うと、商人は2人にキャラメルを一箱ずつ渡した。

「大サービスや。またごひいきにお願いしまっせ」

 彼は軽くウィンクして2人を見送ると、店に戻って呟いた。

「『子供ごっこ』ねぇ…子供が子供の真似するってどーゆーこっちゃろ?」

 しきりに首をひねっていたが、「野暮はせんかった俺は大人やな!」と行けなかった自分を慰めるのであった。

 

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