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「オスカー様と一緒にいると緊張しちゃうんです」 栗色の髪をした女王候補のお嬢ちゃんは、飾りの無い言葉でそう告げた。 「…俺が怖くて?」 静かな声でたずねると、自分の下で横たわる少女はゆっくりとこちらを向いた。 俺の背中を走る、甘い緊張感。 「ほら。怖くなんかないです」 そう言って、彼女は仰向けのまま俺の頬を両手で包んだ。 「だからオスカー様も、私のこと怖がらないで下さいね」 俺は耳を疑った。 「…なに?」 滝の音がすぐ傍でなっているのに、彼女の言葉はひとつもかき消されることなく俺に届く。 「心外だな。俺がお嬢ちゃんを警戒していると? 俺はいつだってお嬢ちゃんの傍にいられないことを悔しがってるんだぜ?」 お嬢ちゃんが、きょとんとした顔で聞いた。 「オスカー様の緊張が私にうつるんです。 ほんの一瞬なんですけど…なんていうか『覚悟する瞬間』みたいなものがあって、 おい、それは俺の台詞だぞ。 「俺の方こそ、お嬢ちゃんの真剣な瞳に引きずられて緊張しただけだ。先に緊張したのはそっちだろう」 ――――待て。なんで俺はお嬢ちゃんのペースに巻き込まれてるんだ? 「…あの、どいてくれませんか?」 そう思っていたら、さっきから至近距離のままの俺に、彼女が決まり悪そうに言った。 「…見ないで下さい…恥ずかしいです」 さすがに女王候補を泣かすわけにもいかないので、俺は素直に離れた。 「・・・じゃあ、別に私が苦手なわけでもないんですね」 彼女の背中がそっと呟く。 「確かめるか?」 俺は立ち上がって、彼女に手を差し伸べる。 「次の日の曜日にデートをしようってことさ。一日たっぷりかけて俺という男を知ればいい。俺がむしろお嬢ちゃんを気に入ってることが分かってもらえるだろうからな」 彼女が珍しく満面の笑みで返事をした。 しかし笑顔の彼女は歳相応に見える。 「俺だって誘いを受けてくれて嬉しいぜ。さて、これ以上の幸せは身に余るというやつだ。そろそろ戻らないか。部屋まで送ろう」 素直に彼女が返事をして、俺の横に立った。 アンジェリーク・コレット。 ―――花が咲いた時が見ものだな。 その花を最初に見るのがこのオスカーであって欲しいと、なぜか願ってしまう俺だった。 *** 帰り道。 「オスカー様」 この約束が仇になり、翌日ジュリアス様に呼ばれた俺が灸を据えられたことを彼女は知らない―――――。
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