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宮殿の長い廊下を走りつつ、俺はふと思った。 ―――俺はどうして追いかけてるんだ? 「来る者拒まず、去る者追わず」が俺のポリシーだったはずだ。 自問したって答えは出ない。 「どうかしてるぜ、まったく・・・」 視界の先で翻るお嬢ちゃんのスカートを見ながら、俺は訳も分からず走っていた。 「しかし一体どこまで走るつもりなんだ、あのお嬢ちゃんは。…ん? 待てよ…?」 相変わらず全力疾走の彼女に少々うんざりしてきた頃、俺はこの道は例の湖にしか繋がっていないことをようやく思い出した。 「偶然か、意図的か…どちらにせよ俺をここに誘い込むとは大したお嬢ちゃんだぜ」 目的地が分かると、俺は走るのをやめて今度はゆっくり歩いて森の湖に向かった。 *** ―――いた。 俺は確かに彼女がここに来ることは予想していたが、それでも彼女を見つけたときはぎょっとした。 「お嬢ちゃん!」 慌てて駆け寄ると、うつ伏せになった彼女の顔は熟したトマトよりも赤かった。 「なんでっ、…なんで追いかけてくるんですか、オスカー様!」 彼女は真っ赤な顔を野草にうずもらせたまま俺を激昂した。 「お嬢ちゃんが逃げるからさ」 俺は苦笑しながら彼女の隣にひざまずいた。 「それじゃあ俺の質問に答えてくれ、お嬢ちゃん。 どうして逃げたんだ?」 そう言って、彼女は顔を背けてしまった。 「白々しいな」 俺はニヤリと笑って彼女の逃げ道をふさぐ。 「さぁ、いい子だから素直に答えるんだ。 お嬢ちゃんは俺のことが嫌いなのか?」 不利な態勢になっても、彼女の言葉は明瞭だった。 「じゃあどうして逃げだしたりしたんだ? こう見えても俺は繊細でね。 お嬢ちゃんの態度にいたく傷ついたんだが」 しおらしく謝る姿は、普段の彼女からは想像出来ないほど はかなかった。 「そうかな? なにせお嬢ちゃんは俺のことを避けてるようだからな」 くるりと勢い良く体を反転すると、まともに俺と目があって…というよりは、まさに抱かれているような格好でいることに気づいて、彼女は慌ててまたうつ伏せになった。 「ただ、オスカー様と一緒にいると緊張しちゃうんです」 お嬢ちゃんの言葉は、まるで風に舞う花びらのように俺の心に届いた。
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