強がり
 

女王試験が始まった。
未だ真相は謎に包まれたままの試験開始であるし、あの女王陛下の笑顔からして何かありそうな試験だが、まあいい。
俺は炎の守護聖としての職務を果たすまでだ。

今回の女王候補に選ばれたお嬢ちゃんは2人。
どちらも自信に溢れていて、2,3年後が楽しみなお嬢ちゃんたちだ。

だが、俺に言わせればまだ蕾だな。

自分がこれからどんな花を咲かせるのか、分かっていない未知数の花だ。
まばゆいばかりの大輪の花をさかせるのか、それとも可憐ではかない花を咲かせるのか、それがどんなに男たちのハートを熱くさせるのか、まったく気づいちゃいない。

自分の魅力を高めるには恋をするのが一番の近道だ。
無論、その相手は十分に見定めなけりゃいけないがな。
お嬢ちゃんたちのすぐ傍に、うってつけの人物がいるということを、早く気づいてもらいたいものだぜ。

ま、それに気づくには、もう少し時間がかかるかもしれんがな。

だが、少し気になることがある。
謎の球体の正体はともかく、毎日サクリアを注いできて、そろそろ育成も終わるだろう。
現在はやや、レイチェルが優勢と言ったところか。

予想通り、と言っては栗色の髪をしたお嬢ちゃんに失礼かな。
だが無理もない。レイチェルは王立研究院創立以来の天才だと噂で聞いた。
その天才少女と僅差で勝負をしているんだ、誉められることなのかもしれん。
どちらにせよ、俺は一人の守護聖として公正な目で判じなければいけないがな。

そうだ。俺が気になるのは試験の行く末ではなくて、劣勢の栗色の髪のお嬢ちゃんのことだ。

最近じゃお子様たちと打ち解けたらしく、日の曜日では元気に庭園を走り回っている姿を良く見る。
無邪気な笑い声を聞いていると、まだまだ可愛らしい少女だと思う。

だが、そんな彼女もごく稀に、ハッとさせるほどの表情を見せる時がある。
例えば俺の執務室に来て育成を頼む時。口を開く一瞬前の真摯な瞳。
透き通るブルーグリーンの瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

さすがにこの瞬間は俺にも緊張が走る。
一瞬のことなのに、俺には電流でも走ったかのような余韻さえ残る。

甘い痺れだとさえ言っていい。

口を開けばなんてことない。普通に会話をしている。…事務的なものばかりだが。
そうして俺は何気ないフリをして彼女の依頼を承諾すると、今度は彼女がかすかに微笑む。
その笑顔も魅力的ではあるが、やはり一瞬前の真剣な顔には及ばない。

なぜ、あんな表情が出来るのか。
どうして俺はこんなにも胸が騒ぐのか。
正直、よく分からないんだ。
炎の守護聖のこの俺が、だぜ?
…まったく、罪なお嬢ちゃんだ。

***

疑問は興味に変わる。それが道理ってもんだ。
実際、あのお嬢ちゃんにはおかしなところがあった。
育成の依頼以外、俺とは接触を避けるんだ。

まだ恋を知らない無垢なお嬢ちゃんには、俺の熱い視線は刺激が強すぎたか?
あるいは、また俺のアイスブルーの瞳で怖がらせちまったか?

…ふむ。埒があかないな。
次の日の曜日にでもデートに誘ってみるか。その時に言葉じゃなくて瞳で語ってもらおう。
俺はお嬢ちゃんのハートに火をつけちまったかどうかを。

なんて考えていたら、俺の執務室から出てくるお嬢ちゃんを見つけた。
どうやら、王立研究院に行っていた俺とすれ違いになったらしい。
だがここでめぐり合えたのも運命ってやつだ。
俺は何気なく歩み寄った。

足音に気が付いて、お嬢ちゃんがこちらを振り向く。
風が走る草原色の瞳が驚きに見開かれた。

「よぉ、お嬢ちゃん。もしやデートのお誘いかな? だったら丁度良かった。俺も今、体が空いたところだぜ」
「オ、オスカー様! …あ、あの、私…」

ほぉ。慌ててるお嬢ちゃんが見れるだなんて珍しいな。
恥らってる姿もなかなか可愛らしいぜ。

「ん? 驚かせちまったか? すまなかったな。お嬢ちゃんを見られて嬉しかったもんで、つい」
「あの! オスカー様!」

お嬢ちゃんが、必死で落ち着こうとしているのが分かった。
俺の囁く甘い言葉に飲み込まれまい と抵抗している。
そんな仕草も、俺にとっては新鮮な喜びだ。

「なんだい、お嬢ちゃん? 顔を赤らめてくれるだなんて俺は期待してもいいのかな?」
「!! 私っ、これで…しっ失礼します…っ!」

なにっ!?

「あっ、オイ、お嬢ちゃん!!」

俺が肩に手をかけるより早く、お嬢ちゃんは宮殿の廊下をすごい勢いで走っていった。
少しからかいすぎたか?
だが。

「逃げられると追いかけたくなるのが男の狩猟本能ってやつさ」

俺は持っていた書類を執務室に投げ込むと、お嬢ちゃんが逃げていった方向へ走り出した。

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