目撃

 

その日、聡子はとても怒っていた。
あまりに怒りすぎて何度も人事不省に陥りそうになったほどだ。
興奮しすぎて血圧を上げ過ぎたらしい。
頭上で一声鳴いた烏にさえ罵声をあげたい気分だった。

原因は昨日、彼氏の浮気現場を目撃してしまったことにある。

サークル仲間と遊ぶのだと自分に説明しておいた彼が、センター街を一人の女性と歓談しながら歩いていたのだ。
一瞬、人違いかとも思った。
自分が彼氏のことを考えすぎて、背格好が似た人を彼だと勘違いしてしまったのかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、こっそりとその人物の死角に移動して顔を確認した。

彼だ。間違いない。

ロングヘアでキレイめな女性の腰に手を回し、鼻の下を伸ばして笑っている。
聡子はかっとなって二人の前に飛び出そうとした。
が、踏みとどまった。
目の前の「化粧完璧☆デート用」キレイめネエチャンに対し、今日の自分の格好はまるでイケてない。
そもそも今日は久しぶりに一人で買い物に出かけるつもりだったからメイクも軽いし、服装だって安っぽい。
今出て行っても、自分の負けが目に見えている。
あの女に鼻で笑われるかもしれない。

くやしい。
あたしだって気合を入れて飾ればそんな女くらい・・・っ!
そう思いつつも、聡子は二人から隠れるようにして家に帰った。屈辱だった。

明日は彼氏を呼び出して、きつくお灸を据えなければ。
聡子は眠れぬ夜をその算段に費やした。
火遊びは火傷のもとなのだとしっかりと教えておく必要がある。
それに何より聡子はあの瞬間味わった苦い屈辱感が許せなかった。
自分というものがありながら、彼氏は浮気をしたのである。しかもその浮気現場にいたにも関わらず出現できなかった。
あの時、自分が出来たことといえば彼らの目を盗むように退散することだけだったのだ。
これ以上の屈辱があるだろうか。

少しくらい冷たい態度をとって懲らしめてやるのもいい。
自分が離れていくと知ったら、きっと彼だって顔を青ざめて泣いて許しを請うに違いない。
ついでに洋服の一着でも買ってもらおう。そのくらいの償いはしてもらわなければ。
それだって自分の怒りが収まるとは言いがたい。
それほどまでに、自分は怒っているのだ。

そうして、ようやく聡子は彼氏を見つけて、開口一番こう怒鳴った。

「ちょっと、トシ君!浮気したでしょ!」
「ああ、お前とな」
「えっ・・・」

なんと浮気相手は自分だったらしい。

END


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