名言

  一生に一度くらい、名言を吐いてみたいものだ。

友人とそんな話をした。

例えば、『良かった、病気の子供はいないんだ…』なんて安堵の顔して言ってみたいものである。
この一言に、どれだけの人間性が濃縮されていることだろう。

言ってみたい。
このくらいカッコイイ言葉を言ってみたい。

…だが残念ながら、自分はその器ではないのだ。

もし自分が同じ立場になってたとしたら、「くそっダマされた!」と口惜しがってただろう。
名言を吐くには、それに見合った器を持っていなければならないのだ。
そしてそれは希少であるから人から重宝される。
一目置かれる。

結局、話は「俺たちには無理だな」と半分愚痴のような笑い話で終わった。

が、それがマズかった。
友人とのダベりが長すぎたのだ。
乗る予定だった電車を一本逃し、俺は彼女との待ち合わせの時間に大幅に遅れてしまった。

どのくらい遅くなったかと言うと、30分。
つまり俺はこの寒空の下、冷たい風の吹く最中、彼女を30分も待たせてしまったのだ。

マズイ。

非常にマズイぞ。

俺は待ち合わせの場所に走っていく間、ずっと謝罪の言葉を考えていた。
きっと彼女はかなり怒っているはずだ。もう帰ってしまってるかもしれない。

俺は深い自己嫌悪に陥りながら、約束の場所に着いた。
彼女がいた。

彼女は俺を見つけると、今にも泣きそうな顔をしてこう言った。

「良かった…途中で事故にでも遭ったのかと思って心配だったから…来てくれて、ホント良かった…」

名言だ。

俺は彼女を素晴らしいと思い、またそんな彼女をもつ俺も捨てたもんじゃないなと思った。


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