SCIENCE      Vol.7

「私…改造人間なの。事故に遭って、九死に一生を得たわ。でも目覚めたときはもう人間じゃなかった。そこで私は自分の体を作るために俗世間から離れて、密に研究をしだしたわ。そうよ、最初はそんなつもりなんてなかった。ただ人間に戻りたかったの。でも…その研究の途中でESPの存在を知った私はその能力が欲しくなってしまった。――――最低な女なの。気づいたときにはもう戻れなかったのよ」

 その乾いた悲痛な声が彼女の話を裏付けていた。
(これが…人間じゃないなんて……)
 ありえるのだろうか。
 こんなにも苦しんで、弱さをさらけ出しているのに。
 自嘲するその顔のルージュが、傷口に見えてくる。

「さあ、もういいでしょう? 私は疲れたの。改造人間として恥をかくより死を選ぶわ。……さようなら。
 きてくれてありがとう。JN−28……いいえ虹川潤。あなたの母親はこの奥よ。ずっと、ごめんなさいね…」

「右月!」

 たまらなくなって、晃が叫んだ。

「あんたは人間だった。だから悲しんだし、憧れたし、一生懸命にもなった。 ただ……道を誤っただけだ…っ」

 ゆっくりと、彼女はその双眸を開き、そしてその後柔らかに微笑んだ。
 美しい、花が咲いたような笑顔だった。

「ありがとう…やさし…いの…ね…」

 カタッと音がして右月綾子は倒れた。
 鈍い金属音を立てて。
 二度と動くことはなかった。

「こんな話って…なんだよ、このエンディング……」

 黙りこむ晃を後ろに、潤は奥へと向かった。
 ドアの鍵は簡単にはずすことが出来た。
 ノブに手をのばす。
 震える指先。
 深呼吸を大きく一回すると、潤は思い切りドアを開けて飛び込んだ。

「お母さんっただいまぁっ!!」

 母親はしっかりと彼を抱きとめ、涙でぐしゃぐしゃになりながら喜んだ。

■■■

「一件落着か…」

 ふうっ、と晃がため息をついた。
 今はシャトルの中。地球への帰宅途中である。
 研究員達は警察に渡してきた。潤とは遊園地へ行く約束をして別れたのだ。
 母親に会った彼はもう普通の少年のように甘えていた。生意気な態度は相変わらずであったが。

「最高の誕生日だったな。ありがとね、晃君。それと、ご苦労様でした」

 心から言っている隣の渚を見て、晃は微笑した。

「渚、はいこれ。プレゼント」

 前触れもなしに、晃はちいさなラッピングされた箱を手渡した。
 渚はその場でそれを開ける。
 中でチカチカ輝くのはネックレス。一頭のイルカが なめらかな曲線を描いている。

「うわっ…きれい…。ありがとう」
「時間と予算の都合上、こんなのになっちまったけどね」

 それだけ言うと、晃は視線を窓に移した。
 青い星が見える。
 水の惑星。

「科学者の卵には、今回は辛かったわね」

 静かに渚が口にした。晃に向かって。

「そうだな…本当に嫌な現実を見たもんだと 今でも思うよ。……でも俺は間違えない。科学技術の発展は「人のため」
なんだ。傷つけるためのものじゃない。――――右月だって…、あんなことしなきゃ歴史に残る人物だったのに」

 うつむいた晃の肩に、渚はもたれた。

「晃君なら大丈夫よ。私が保証したげましょう。…ねえ、この蒼い宝石を私たちが受け継ぐなんて素敵だと思わない?」

 返事の代わりに、晃はやさしい大人びた微笑を返して、渚の首にそのネックレスをかけた。
 窓の外。果てしない宇宙の中。
 水の惑星は太陽の光を浴びて、蒼い宝石のように転がっていた。

Fin   

 

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