SCIENCE     Vol.

 晃が行ってしまって、しばらくの沈黙があった。
 風の当らない壁際へと移動し、2人は彼の帰りを待っている。

「ねえ、渚さん…」

 沈黙に耐えかねて潤が口を開いた。

「草薙が何を買ってくるか 知ってる?」

 なぜか彼が逃げる、とは思えなかった。
 もしかしたら、信じたかったのかもしれない。

「知らないわ。でも晃君は人を傷つけるようなものは買ってこないわよ。絶対」

 絶対、なんて言葉を付け足して渚は言った。

(だって…晃君だもの)

 それこそ絶対的な自信というものだ。
 その理由に対して、渚は少し笑った。
 ―――反論の余地がなさ過ぎる。

「じゃあ、どうやって研究所に入るつもりなんだろう? 話して入れてくれることろじゃないのに」

 思い出すように言う潤の顔は真っ青だった。恐怖に顔を引きつらせて。
 そんな潤の肩を。渚は優しく抱きしめた。
 ぎゅっと力強くつぶられていた眼が、大きく開かれる。

「怖いことは忘れるのが一番よ。晃君は頭が良いし、頼りになるんだから。ね? 安心していいの。
これから潤君たちは解放されて、お母さんに会うのよ。潤君は一番最初に何をしたい?」

 渚の問いに、潤は即答した。

「ただいまって言って、お母さんに抱きつくんだ。あとね、アミューズメントパークに行きたい!」
「そう。じゃあ今度みんなで行こうか」

 穏やかに訊く渚に、潤は顔を赤らめて、力強くうなずくのだった。

■■■

 太陽が頭上に昇るころ、晃は戻ってきた。昼食をしっかり抱えて。

「ほれっ。ハンバーガーだけどいいよな? 腹が減っては戦はできぬっつーだろ、昔から。 遠慮なく食え」
「あっ、ありがとな…」
「どーいたしまして」

 ニカッと笑って、彼も自分の分にかぶりついた。すごい勢いで、たいらげてゆく。
 その情景を少年は半ば呆然と見ていた。

 そうやって簡単に昼食を済ますと、買物袋の中は空になってしまった。
 本来目的の品が見つからない。

「なぁ、草薙。お前は一体何を買ってきたんだ? 昼飯だけじゃないんだろ、まさか」

 恐ろしく不安げに潤が訊いた。

「ひ・み・つ☆」

 くらくらする。
 潤は本当にその場に座り込んでしまうところだった。

「今、僕は目の前が真っ暗になったぞ。ついでに言うと鳥肌も立ったし、腰も抜けそうになったし、勝利の女神の後姿まで見えちゃったぞ!
 ……こんな奴に僕の命が預けられてるのか? 不安だ。……ものすごく不安だ。本っっ当に大丈夫なんだろうな?」
「まっかせなさいって。生きるも死ぬも一緒。光栄に思えよ、俺と運命共同体なんだから。ゆえにお前は大丈夫。
すべてはあのお星様の思し召しなのだよ。はーはっはっは」
「大ばか者…」

 この白昼青空の中、どこに星などあるというのだ。

「さて潤。右月の波動、キャッチ出来るか?」

 急に真剣な顔で訊かれて少年はビックリする。百面相な奴だ。

「やってみる。見つけたらどうすればいいんだ?」
「その付近で、誰もいないところに移動しろ」

 黙ってうなずくと、潤はすぐに探し始めた。
 神経を尖らせる。
 無音。

「――――あ、見つけたっ」
 言ったと同時に、彼らはその地へと飛んだのだった。

■■■

 一面の荒野。まだ開発途中の開拓地だろう。そこに一つだけ廃屋がある。
 研究所があるとすれば、その地下だ。

「問題はどこに制御システムがあるか…だな」

 本部にあるであろうこの制御システムが一番厄介なのだ。ESPを無力化、あるいは著しく威力を抑えるシステム。
 これが作動している限り、潤の能力はたいした戦力とならない。

「んじゃあさ、私が囮になって本部まで連行されるから、その後こっちに2人とも飛んで入っちゃえば?
 そしてマザーコンピューターも壊すの。ね?」

 渚が前触れもなくそう言うと、2人がいる岩陰から立ち上がり、あたかも今着いたように振舞った。
 すると白衣を着た男が出てきて、予定通りというべきか 彼女を連行してゆく。

「あのバカ。勝手に危ない橋 渡りやがって…」

 制止する間もなく行かれてしまった晃が、潤の横で悔しがっている。

「いいか、俺が合図したら瞬間移動するんだ。着いたと同時に俺がコイツを投げるから、お前は結界を張れ」

 外では、着々と計画が練られていた。

 

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