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ざくざくと枯葉を踏みしだき、男は一目散に走って逃げた。 青白く光った月はもう西に傾き、空は薄藍色に染まっている。 夜明けの刻だった。 男は体を折り曲げて、切らした息を整える。 もう眠ろう。 男はそう心に決めて、夜露を含んだ空気を深く吸い込むとそのまま眠りについたのであった。 ****** 太陽が頭上に昇る頃、男は眠りに着く前の決断を、実行に移そうとした。 ―――――女を殺そう。でなければ、あいつは俺を殺すに違いない。 それは確信に近かった。 相変わらず空虚な目をして、女は座していた。 男は、夜の、あの女に変わる前に、その細い首を締めてやろうと思った。 「くせ者!! お嬢様から離れぬかっ!!」 しゃがれているが、精一杯張り上げた声がした。 男は舌打ちをして女から離れた。 男は老婆に当身をくらわすと、邸を退くことにした。 ******* 秋の月は気持ちを神妙にしてくれる。 これから殺そうという相手に、男は手土産を持ってきた。 音を立てずに座敷に上がると、案の定几調の奥で女が寝ていた。 そうしてしばらく乱れた後、男は褥から出た。 白い腕が月光に映えた。 男はどうしたらいいか判らなくなって、とりあえず持ってきた川魚を女に手渡した。 「……罪深いこと……」 と呟くのが聞こえた。 判らないけれど、もう一度小さく呟いた女の顔が哀しげなのだけは分かった。 |
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