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  「お前は強いね・・・」

木々の合間を縫うように歩いていると、突然に女はそんなことを言った。

「お前は私の身体を見ただろうに・・・。私の業の深さを知っただろうに、また私のもとへ戻ってきた。
ふふ・・・おかしな男だね」

女が先を歩いていたので、男からは顔が見えなかったが、どんな表情をしているのか、何となく男には分かった。

「私は男とも女とも分からぬ身さ。肉親でさえ私を忌んだのに、お前は私の夫となったのだからね…」

月が皓かった。何もかもが良く見えた。

「お前は……きれい、だ。だから、欲しい・・・なった」

男が片言の言葉を喋った。
人間の言葉を聞くことはあっても、喋ったことはずいぶんと久しぶりだった。
当然、たどたどしい言い方になる。

案の定、女は驚いたようだった。
くるりと男の方を振り返る。

「話せたのかい? 昨夜は何も言わぬから、ものが言えぬと思っていたが・・・そうか、言葉を知らないのだね」

女は月光を浴びて、うっとりと笑うと、また前を向いて歩き出した。
女の肩が滑らかな曲線を描いて落ちる。
男の仮装をしていても、はやりよく見ればなよやかな女なのだ。

不思議だ。と男は思った。

なぜ、女がこんな姿をしているのだろう。
昼と夜のこの女は同一人物なのだろうか。
自分は夢を見てるのだろうか。
なぜ、自分はこんなにも惹かれるのか。目を閉じたって、気持ちは女の気配を追っている。

―――――殺されるのに。最後は、自分はこの女に殺されるだろうに。

「!」

枯葉を踏む音がした。彼らのものではない。
男が驚いて女を見ると、女は月に顔を半分照らして、ニイッと笑った。

男は喉まで出掛かった悲鳴を無理やり飲み込む。
ぞっとするほど美しい笑顔だった。

ガサッ。ガサッ。ガサッ。

木々の間から、ようやく足音の主が現れた。
行商人らしい、身重の女だった。
片手に荷物を、もう片手で、ふっくらと突き出た腹を押さえている。

「あら?」

2人がいることに気づいて、少し驚いた顔をしたときだった。
一瞬、眩しい閃光が走り、そうして身重の女の持っていた荷物が、腕ごと落ちた。
ぽとり、とあっけなく落ちた。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」

身を引き裂くような悲鳴が上がった。
片腕の女が、自分の傷口を見て悲鳴がほとばしる。

衣服がすでに真っ赤であった。
どくどくと流れる血を見つめて、その女は残った手で腹を庇うようにしつつ 2、3歩後ずさる。

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