「誰?クレアなの?」

姿は見えず声だけの存在に対して、イザベラは恐怖におののくことなく詰問した。
彼女がここに来た理由を考えれば当然である。
対してお供の衛兵二人は表情を固くしてあたりを見回している。顔色が悪かった。

「アンタ馬ッ鹿じゃないの?ここはクレアの森だよぉ?ここに住んでるのはクレア・ウィッチに決まってんじゃん。そういうアンタ達は誰よ?何しに来たわけぇ?」

森中に甲高い声がこだまする。ちょうど3人を取り囲むような反響の仕方だった。
そしてどうやら声が頭上から降ってきてるのも察せられた。

「あたしはイザベラ。<レヴィスタ>の王女よ。あなたがかけた魔法をといてもらいにここまで来たわ。いつまでも隠れてないで出てきなさいよ」

イザベラは紅玉の瞳を燃え上がらせて天を仰ぎつつ声を張った。
彼女の黄金の髪が豊かに波打ってかすかに光る。
衛兵エドとカインはとうとうお互いに背中をくっつけて様子を見てる。

「はん。<レヴィスタ>の小便くさいガキが生意気言ってんじゃないわよ。第一レディの家にそんなムサイ男どもを連れ込もうなんて常識がなってないんじゃなぁい?出直してらっしゃい、青二才のイザベラちゃん。きゃはははは」

頭蓋骨に反響するような笑い声だった。
イザベラは馬鹿にされたと知ってかっとなり、衛兵二人は力なく座り込む。

「冗談じゃないわよ!クレア・ウィッチ、あなたが今までやってきたことを考えれば護衛だって必要にもなるわ。さっさとリンドルムの魔法を解いて!」
「リンドルムの魔法だって?」

イザベラの言葉を聞いたクレアは急に声色が変わった。

「お、お嬢様…」
「……俺、もう帰りたい…」

カインは青い顔をして、激昂するイザベラを落ち着かせようとしたが混乱して言葉が出ない様子である。カインよりやや年下のエドは情けないことに弱音を吐き出した。
言ったと途端にカインに殴られたが。

「そうよ。<ノーヴァ>の第三王子が私と入れ替わりに眠りについてしまったわ。あなたの仕業なんでしょう?こんなのってないわ。私を100年眠らせただけじゃ足りないというの?どうして無関係のリンドルムまで眠らなくちゃいけないの?いい加減にして!」

イザベラは天をまっすぐに見据えて怒りを開放した。
すると彼女の視線の先に声から想像した通りの12,13歳くらいの少女が空中に出現する。
彼女こそがクレアの森の住人、イザベラに魔法をかけた張本人。クレア・ウィッチであった。

「…そんな魔法、私はかけた覚えがないんだけどねぇ。因縁をつけられるのも不愉快な話だしぃ。いいわ、イザベラ。ちょっと私の家までおいで。特別に入れてあげる。ただしそこの情けない男たちはダメよぉ」

少女は大人びた仕草で指を己の顎に当てた。
黒くて夜露をたっぷりと含んだ大きな瞳がにんまりと細められる。
猫を連想させるそれだった。

「もちろん行くわ。……エド、カイン悪いけどここで待っててね」
「お嬢様…しかし、それではお役目が…」
「お役目ったって全然役に立ってないじゃん、アンタたちぃ。きゃはは」

まだ分別のあるカインが食い下がるがクレアによって一蹴されてしまった。
エドはぶんぶんとうなずいて、

「翌朝になっても帰ってこなかったら援軍を呼んできます」

なんて調子のいいことを言う。
さすがにこれにはイザベラも噴き出した。

「それじゃ行って来るわね」

いささか毒を抜かれたイザベラは、潔くクレアと一緒に夜の闇に消えていった。
そして取り残された男2りは互いに顔を見合わせ、安堵なのか反省なのか分からないため息を深く深くついたのである。

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「100年前はオシメもとれないハナ垂れだったのにねぇ」
「嘘言わないでよ。100年前も今と変わらず17歳だわ!」

どうやって通ってきたのかイザベラには分からなかったが、案内されたクレアの家は無節操に集められた雑貨が散乱して足の踏み場しかなかった。
黄ばんだ紙や、色あせた置き物が所狭しと床に散らかっている。

「確かにこれじゃ他人は呼びたくないわね」

イザベラは容赦ない。

「うるさいわねぇ。客は黙って茶でもすすってりゃいいのよぉ」

クレアはそう言って、かなり年代物であろう銅のカップに温めたスープを入れてもてなした。
イザベラは黒く変色した部分にはなるべく触らないようにしてそれを飲む。
冷えた体にスープが流れてゆくのが分かった。

「ありがとう。…おいしいわ」
「当然じゃーん?」

まんざらでもなさそうにクレアも同じ物を飲む。
部屋の明かりの下で見る彼女は、とても幼い少女そのものであった。

「それで?アンタの言い分をまず聞いてあげようじゃないのさぁ」

イザベラは目覚めてからの経緯をクレアに説明した。

 

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