お姫様の苦悩
 
しん、と静まり返った塔の中。
王国は眠りに支配され、荊によって閉ざされた。
取りも植物も風さえも眠る王国。
すべての始まりは王女の誕生会。
一人だけのけ者扱いされたと思った魔法使いは、愛らしい王女に呪をかける。

「糸紡ぎの針を刺し、王女は17歳で死ぬだろう」

最後の魔法使いがその呪を眠りに変えたが、それでも100年の眠りが言い渡される。
そして運命の17歳の誕生日。
王女は初めて見る紡績機に興味を持って近づいた。
そのまま指を針で指し、王女は国もろとも夢の世界に捕らわれる。
100年の眠りを経て、王子が彼女を起こすまで…。

けれど、これから始まるのは これとはまた別のお話…。

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「冗談でしょ、ちょっとっ!!」

17歳の王女イザベラは、覚醒して数分後には声を荒げていた。
100年の眠りも終り、運命の恋人とも出会い、これからの生活はバラ色に約束されていたハズである。
それなのに。

「なんで今度はあんたが眠るのよーっ!」

そう。
自分を起こしてくれた青年が、接吻した瞬間にフラフラと倒れてしまったのだ。
うっとりとした顔で、青年は瞼を閉じたまま切れ切れに言葉を紡ぐ。

「ああ私は幸せだ…こんなに…素敵な姫と…出会えて…婚約も取り付け………ぐう」
「ちょっとちょっとちょっとぉ!!」

そのまま彼の両肩をつかみ、がくがくと揺すったが青年が目を覚ます様子はない。
穏やかな寝息を立てる彼の端正な顔を、イザベラは景気良く往復ビンタした。
細い腕ながらも手首のスナップを効かせた強烈なやつである。
ばちん、べちん、ばちん、べちん。…もひとつオマケにべちん。
青年の顔は真っ赤に膨れ上がった。
だが目覚めない。

「どうしよう…ねぇ…なんでよ…?」

イザベラは泣きたくなった。
紅玉色の瞳にじんわりと涙が浮かぶ。

「わたし…まだ夢を見てるの…?」

まばゆい程の光の色をした髪をたらし、イザベラは両目をごしごし とこすった。
夢なら早く醒めて欲しい。
こんなのって酷すぎる。
途方にくれた彼女の頬を、優しく撫でるように風が吹いた。
ざわ、と葉擦れの音が耳に飛び込んでくる。
驚いて窓から下をのぞくと、王国を取り囲んでいた荊がみるみる枯れてゆくのが見えた。
次第に人の喧騒が聞こえてくる。

「呪はとけたの?」

もう一度青年の傍に戻り、そっとその頬に触れた。
幸せそうに閉じられた瞳。
眠ったままのことを除けば、彫りの深い顔立ちといい、バランスの取れた体型といい、
イザベラの好みをピンポイントヒットしている。
一瞬見つめあった瞳も、聡明そうな深い蒼色で一目で恋に落ちた。
穏やかな湖の水面のような優しい色だったのに。

「イザベラよ!」

突然大きな声で名前を呼ばれて、イザベラは身体をすくませた。

「お、お父様…」

息を切らせて入ってきたのは、実父である国王だ。
続いて母 王妃も駆け込んでくる。
300段以上の階段を一気に駆け上ってきたのだろう。
息継ぎのため言葉が出ない代わりに、国王はイザベラを抱きしめた。

「お父様達も眠っていたの?」
「ああ。目覚めたとき、お前が一人ぼっちになることがないよう魔法使いが我々にも魔法を
かけてくれたのだよ」
「どこか具合の悪いところはないですか?」

100年前と全く変わらない母のおっとりした物言いに、イザベラは緊張の糸が途切れたよう
に泣き出した。

「うわああああああああああああああんっ」

とても年頃の娘とは思えない、みっともない泣き方である。

「イザベラ? イザベラ…どうしたの?」

母が心配そうに駆け寄る。

「…あの人が…あの人が今度は呪に…ふええええん…っ」
「あの人?」

そうしてようやく国王は台座で真っ赤な顔をしている青年の存在に気がついた。

「…随分と むくんだ顔だな…」

国王の呟きは、イザベラの泣き声にかき消された。

「私を目覚めさせてくれたのが この人なの…なのに…私にプロポーズした直後に倒れて
しまって…っ」
「――――死んだのか?」
「生きてるわよ、お父様のばかぁ…っ!!」
「す、すまん」

国王の威厳はどこへやら。
イザベラの迫力に負けてる父である。
母はレースのハンカチをイザベラに渡すと、青年の様子を見に台座に近寄ると、「あら?」
と言った。

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