四
都を離れ、徒歩(かち)で西方の山へ2人は行くことにした。 なぜなら今月鬼の出た屋敷は都のはずれの鄙びたところにあったからだ。 「話を聞くに、どうも蛇のようだ。ならば水辺に近い山際を行くのが良い」 という晴明の言葉に博雅は従ったのである。 「今日は天気がいい。風も気持ちいいぞ。晴明、徒歩でゆこう」 という無邪気な博雅の意見に晴明は従ったのである。 みずみずしい新緑の薫りを胸が痛くなるほど吸い込んで、博雅は大きく伸びをした。 「どうした」 穏やかに見つめる瞳に、彼は幸せな言葉で返す。 「良いか」 博雅の言葉に、晴明も耳をすます。 「古よ偲ひにければ霍公鳥鳴く声聞きて恋ひしきものを、か…」 晴明の独白に、博雅は驚いた顔をした。 「なに?」 「知らぬ。しかしお前、よくすぐに声の主が分かったなぁ」 さも当然のように彼は答える。 「俺は分からなかったぞ」 再び歩き出した晴明の後を、博雅が急いでついてゆく。 「以前、話しただろう。名とは人を縛る呪だと」 うんざりした調子で博雅が返すと晴明が軽く笑った。 「まぁ聞け。例えば、こうして一羽の鳥が春の喜びを歌ったとする」 納得が出来ずに博雅が小走りに駆け寄り、晴明の肩をつかんだ。 「俺にはさっぱり分からんぞ。名などあろうとなかろうと美しいものは美しいだろう?」 晴明の視線の先を見るとそこには乳飲み子を抱えた女達の列があった。 「なんだこれは」 泣き叫ぶ赤子の声にかき消されまいと、博雅の声も自然に大きくなる。 「少し聞かせてくれまいか。これは何の列だ?」 冷静な晴明は最後尾の女に尋ねる。 「おい。いくら乳を分けるといったって、この人数は…」 呆れた顔で博雅が女の数を数えた。 「十は超えているぞ」 そっけなく晴明は答えると、蛇について数人に話を聞くが、誰もそんなものは見たことがないという。 |
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