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「といういきさつ。分かった?」 のほほんとした顔をするのはラギーだ。 今はラギーが話し終わったところだ。 (最ッ低な女ぁ…) 甘いロマンスを期待していた。 「…ごめっ…なさ…っ」 溢れる涙を必死にこらえて由奈は謝った。 「な、泣かないでよ由奈ちゃん…」 しどろもろどになりながら、あたふたとラギーは由奈をあやした。 「俺は勝手に話し出したんだから…」 ねっ? と懸命に笑わせようと試みている。 「あぁ良かった。女の子を泣かしたら、ルラに怒られちゃうよ」 少々皮肉げに言ってやった。 「誰よりも大切な俺の奥さんだからね」 臆面もなく青年は言ってのける。 「大切…ね」 微かに呟いて、由奈はまた自分の中に入り込んだ。 「いいなぁ…」 こぼしたセリフをラギーは聞き逃さなかった。 「何が? 由奈ちゃんも早く結婚したいの?」 どうやら違う意味でとらえたようだ。 「そーじゃなくて…」 軽く笑って回転イスを少し回す。 「そんなに大切にされてさ。―――――大切にしてくれる人なんていないもの。私には」 弱々しく微笑んでコーヒーで唇を湿らす。 (我ながら暗い奴…) 自己嫌悪に陥りながらも、しょうがないと思ってしまう自分がいる。 『恥をかかせないで』 (何のための高校進学なの…?) 「由奈ちゃん、君は大切にされてるよ。進学できるのだって、この一人部屋だって由奈ちゃんのためじゃないの?」 頭の中で絡み合っていた回路をプツンと切られたような気がした。 「物質面ではね。でも私、駒みたい。あの人たちのために踊らされてるわ」 即答が出来ずに、由奈は黙ってしまった。 「大切かなんてね、失ってから気づいてちゃ遅すぎるんだよ」 ルラのことを言っているようだった。 「俺は分かってなかったのかもしれないね。俺より大切だったのに、傷つけてしまった。…いまさら思い知ったってしょうがないのにね」 大人びた作り笑いをする。 「あのさっ…」 向き直って由奈は話し掛けた。 「ラギーさんが思ってるよりルラさん、幸せだと思う。両目ないからって幸せまでなくしたわけじゃないよ。じゃなきゃあんな風に優しく笑えないもん。私そう思う」 「過去のミスが罪だとしても、自分でその罪を大きくしちゃいけないと思うの。いつまでも悔やんで自分を責めてたら、ルラさんにも失礼だと思うよ」 驚いた顔でラギーが由奈を見る。 「私がルラさんだったら、好きな人と一緒にいられるだけで幸せだな。たとえ過去に何があっても…」 本当に? 「あ…ハハッ…今、嬉しくて泣くとこだった…」 前髪をかき分けて、サンタクロースは仰いだ。 「ありがとう」 真っ直ぐに由奈をみつめて、笑った。 「えっ…あの…っ」 急に照れくさくなって、由奈は言葉を続けた。 「見えないものをさっ…気づくのって、解るって難しいけどさ、それだけの価値はあるんだね」 (私こそ…アリガト) 「由奈ちゃん、お礼がしたいんだ。俺が合図するまで目を閉じてて」 おもむろにラギーは立ち上がり、由奈の手を取った。 「いいよ。由奈ちゃん、見て」 すぐ隣からの声で目を開けると、自分達は宙に浮いていた。 「なっなな…っ」 すぐ足元でブロンドの髪をした子供達がボールをけって遊んでいる。 「ラギーさんここっ…!!」 こともなげにあっさりと彼は言った。 「?」 事態が把握できず、首をかしげる由奈を見てラギーは説明した。 「あのボールねぇ、俺が昨夜プレゼントしたんだよ」 にこにこしながら彼らの表情を追いかけている。 「俺ね、こうやって贈った後の子供達を見るのが好きなんだ。本ッ当に心から喜んでくれるでしょ? 返事も待たずにラギーは彼女の手を引いて飛翔した。 「―――――きれい…」 ため息を誘う空の色をした海。 「ね、絶景でしょ?」 こくんとうなずいて、彼女はまた異国の景色に見入った。 「ああ…なんだ、そっか」 しばらくの沈黙の後、由奈が放心状態で口を開いた。 「わたし…スチュワーデスになるのが夢だったじゃんか」 それは遠い記憶。 「帰ろう、ラギーさん」 意外そうな顔で由奈を見た。 「うん。しっかりと心に刻み込んだから」 照れながら笑って、由奈また自分の部屋に戻ってきた。 「ありがとね」 すんなりと言葉が出た。彼の心遣いに。 「私、いろんな事あなたからもらったわ。大事なことも教えてもらった」 優しい瞳でラギーが訊いた。 「…『夢』、かな。でも、もっといっぱい」 今度は即答できた。迷わずに。自信を持って。 「そろそろ帰らなくちゃ。ルラが淋しがってるし」 ラギーが窓に足掛ける。 「頑張ってね」 意表をついた由奈の言葉に、ラギーは顔を赤くした。 「できれば女の子がいいかも」 耳まで赤く染め上げたラギーで由奈は遊んでいた。 「それじゃあ」 奥さん、という呼ばれ方が嬉しかったのか、顔に満面の笑みをたたえ、彼は返事をした。 「また来年…っ」 雲へと上昇していく彼の背中を、見えなくなるまで見送った。 「よーし!!」 カップに残っていたコーヒーを飲み干し、由奈はノートを広げた。 由奈はふと視線を外に向けた。 END |
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