−3− 鼓動が聞こえる。すぐ耳元で吐息も。 「気づいた?」 安堵のため息と共にラギーは囁いた。 「ラ…」 ラギー、と言おうとしてルラは激しく咳き込んだ。 「動かないで。どうやら…来ちゃいけない所に迷い込んだみたいだよ」 どこか澱んだ世界にいることは確かだ。 暗黒の地。 天の者はいるだけで生気を吸われる魔性の地だ。 「大丈夫だよ。大丈夫…」 自分に言い聞かせるように彼は繰り返した。 「逃げましょう、ラギー。そのうち匂いを嗅ぎつけて妖者たちが来るわ」 なんとか声を振り絞って、か細くルラが言う。 「どこかに歪みがあるはずだわ」 でなければ入ってこられなかったはずだ。 「わかったよ」 彼女を抱きかかえたまま、ラギーは歩き出した。 「ねぇっ、平気だから降ろして。私も歩くわ」 軽く笑った彼を見て、ルラは真っ赤になってうつむいた。 「ごめん…」 しばらくの後、彼は沈黙を破った。出口は未だ見つかっていない。 「俺が誘ったから…俺が誘わなければ、こんなことにならなかったのにね…」 弱い吐息の彼女をきつく抱きしめる。ルラは顔色も悪くなってきていた。 「…え? なに? もう一度言って」 ラギーは後頭部を思い切り殴られたような感覚を味わった。 「ミカエルッッ!!!」 喉が痛むくらい彼はその名を叫んだ。 「ミカエル!! 大天使なら出て来い…っ!!!」 (頼む―――…) その刹那。 一閃が暗黒を切り裂いた。 ≪救世主≫ そんな言葉がラギーの頭の中をよぎる。 「出るぞ」 軽いため息をしてラギーを一瞥すると、有無を言わせぬ口調で大天使は言った。 「あ、ああ…」 どのように、とは訊かなかった。 「ルラはこちらで預かる。全快するには少し時間が必要だろうからな」 無感情なミカエルの言葉にラギーは呆然と答えた。 「ラギー」 ルラをその腕に抱えながらミカエルは言った。 「明日には必ず誰かが騒ぎ出す。覚悟はしておけ」 うなずく彼を見ると、大天使はきびすを返した。 「あ…っ――――感謝してる…。ルラを助けてくれて…」 かすれそうな声で、ラギーは彼の背中に言った。 「坊やになつかれても嬉しくもないが。今日は休むがいい」 彼の背中が答えたかと思うと、もうそこには誰もいなかった。 |
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