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 まだ隼人は状況が飲み込めていない。榊が軽い身のこなしで戻ってくると隼人がちょうど着替え終わった時だった。

 「くっ…七五三みたいだな…」

 必死に笑いを堪える榊を見て、さすがに隼人はむっとした。

 「おいおい。悪かったって」

 不機嫌を顔面いっぱいに表して、隼人はスーツ姿のまま買ってきたものを冷蔵庫に移し始めた。

 「あ、俺がやっといてやるよ。だから隼人、お前、髪整えて来い」
 「なんで…っ」

 近づいてきた高身長に挑むように口を開くと、男はぽんと隼人の頭に手を置いた。

 「大人の世界にご招待だ。夜の楽しみを教えてやるぜ」

 甘く微笑すると、男は茫然としている隼人から買い物袋をとって、その位置を占領した。
 隼人はやることを奪われ、言われるままに洗面台へと向かう。
 冷蔵庫前に、いい男がスーツ姿で何やらやっているのは異様な光景だったが、思考がストップしている隼人は
 いい男は冷蔵庫も似合うもんだ、などとぼんやり考えていた。

 「似合うじゃないか」

 前髪をほとんど後ろに流し、女心をくすぐる程度に前に垂らした。
 こうすると、隼人はもう20代に見える。

 「これも忘れずにもってけよ。もう一つのプレゼントだ」

 ぽん、と例の箱を投げてよこした。

 「何、これ?」
 「開けてからのお楽しみ」

 まさかビックリ箱じゃねぇだろうな―――――――。
 ありえる話にびくつきながら、隼人は恐る恐るリボンをほどいた。
 とりあえず、ふってみる。
 硬いものがぶつかっているような音だ。ゴトゴトと鳴っている。

 「おい、危険物だぜ」
 「げっ…」

 ますます怖くなって、やめようかな、なんて思いながら隼人は慎重に箱を開けた。

 「っ!!」

 マジかよ――――――――――――――――っ!?
 驚きのあまり箱を落としそうになって、慌ててキャッチした。
 絶句状態で、信じられないといった眼差しを榊に向ける。
 その顔が嬉しかったのか、榊はニコニコしながらそれを取り上げて、手にした。

 「S&W(スミス アンド ウェッソン)M586。カッコイイだろ」

 榊の大きな掌におさまっているのは拳銃である。
 金属特有の鈍い光を反射させている、端正な、本当に飾りっけのない、シンプルで完璧なシルエットのそれは
 美しいリボルバーだった。

 「これねぇ、とある筋を拝み倒して譲ってもらったんだ。リボルバーの王者って呼ばれてる代物なんだぜ」
 「これって違法なんじゃ…」
 「バレなきゃ大丈夫だって。6発しか撃てないけど、まぁ護身用だからな。高望みはしないさ。第一…」

 そこまで言って、榊はゆっくりと銃をかまえた。

 「コイツを見てビビらない奴はいない」

 すっと銃口を窓の外のネオンに向けて、榊は引金に指をかけた。
 ガキンッ!! と、力強い音で撃鉄がおりる。
 シリンダーの中はからっぽ。空撃ちだった。

 「カッコいいだろ」

 榊はいつまでも黙っている隼人に振り返って訊いた。

 「銃が? それとも榊が?」
 「どっちも」

 とげとげしく言う隼人に、いたずらっぽく榊は破顔した。

 

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