そもそも、なんで私がこの現状を好きになれないのかには2つの理由がある。
そりゃ突然目が覚めたら他人の顔でした。なんて状況を楽しめる奴も少ないだろうけどさ。1つめ。この顔がキレイじゃないから。
造作じゃなくて、なんて言うか「キレイ」じゃないんだよね。この顔。
私は自慢じゃないけど自分のメイクの腕にはそれなりの自信がある。口の悪い同僚からは「美の守護聖」とからかわれるくらいだからね。
その人の魅力を瞬時に見抜いて、そのチャーミングなところを強調するのは得意!…のはずだったんだけど。
さっきから、じーっと鏡を覗き込んでるけど一向に、この顔に「魅力」を感じない。
なんかシケタ顔しちゃっててさ。私らしい「ハッピー☆」なところが欠片も感じられないんだよね。
あーあ。自信喪失しちゃいそ。
2つめ。「オリヴィエじゃない」といつ言われるか分かったもんじゃなくて落ち着かないから。
別にやましいことは何もしてないけどさ。でも当人が自分でないことを認めてるんだから、誰かがそれを暴くこともありえるわけじゃない?
そのときに私は自信持って「私はオリヴィエだよ!!」って言い切れるのかなって思うと、自信がなかったりするんだよねぇ。
あーやだやだ。
考えたってどーしようもないんだから、今日はさっさと寝よ。
最近寝不足気味だったし、ルヴァの言ったとおり疲れてるのかもしれない。
執務室の世話係に休むことを告げて、私は暖かな日差しの差し込む窓際で大きく伸びをした。
すると外を歩く2人の人影発見。あれはルヴァとアンジェリークじゃないか。
その光景を見たとき、胸がちくっと痛んだ。
2人とも楽しそうに話してる。…女王候補なんだから、他の守護聖と仲良くするのは当然だよね。
分かってるけど、でもやっぱり気になる。
アンジェリーク。
キラキラ光る茶色の髪。気の強そうな顔してて、笑顔がとびきりカワイイ。
ちょっと からかうと、すぐに信じちゃう素直な子。からかわれたと知るとちょっとふくれて、でもその直後には笑ってる。
あの子といるだけで、気持ちがワクワクしちゃう。そんな不思議な子。
魅力的な子だから女王候補としてだけじゃなくて、私は多分好きになってるんだと思うけど。
だけど。
実際アンジェリークは誰とでも仲がいい。守護聖たちだって誰も彼女を悪く思ってる人はいない。
――――― じゃあ、アンジェリークは誰が好きなんだろう。
「オリヴィエさま」
「うわああああっっ!!!」
「きゃああああっっ!!!」
突然声を掛けられて、私は大声をあげた。そして私のその反応に声の主もびっくりしてしまったらしい。
「アンジェリーク! …ビックリさせないでよ」
「ご、ごめんなさい、オリヴィエさま。まさかそんなにビックリなさるとは思わなくって…」
「もぉ今日は心臓に悪いことばっかり」
「すいません…」
アンジェリークは怒られたと思ってしゅんとしてしまった。…かわいいねぇ。
「別に怒ってないよ。だからそんな顔しないで。今日はどうしたの? さっきルヴァと外歩いてなかったっけ?」
「あ、はい。ルヴァ様からオリヴィエ様の体調が良くないって聞いて…」
「わざわざ来てくれたの?」
「はい。でも返ってご迷惑をおかけしちゃってすいませんでした」
「ううん。嬉しいよ。あんたの心配してくれた気持ち☆ でも実際どこが悪いってわけじゃないから、そう心配しないで」
どこか痛いとかいうなら、悪いところが分かっていいんだけど、顔が違うという症状からじゃ患部は分かんないからねぇ。
厄介と言えば厄介なんだけど。
「そうなんですか? それを聞いて安心しました。それじゃ、私はこれで」
「もう帰っちゃうの?」
「はい。あまり長居しちゃうのもお邪魔になっちゃいますから。お大事にしてくださいね」
「あ、待ってアンジェリーク!」
「え?」
しまった。用事もないのに呼び止めちゃったよ。
「えー…っと…その、さ。今日の私、どこか違う?」
適当な話題が見つからなくて、私は墓穴を掘るはめになった。誰が見たって、何も変わりがないのに。
みんなそう言ってるのに。
「あ、はい。何だかいつものオリヴィエ様じゃないみたいです」
アンジェリークは、私の眼を真っ直ぐに見つめてそう言った。
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