京のオンナノコ事情



「う〜〜〜〜む」
遥かなる世界に、心ならずも召喚された、元宮あかね。龍神の神子としての多忙な日々を送っているうちに、すっかり手抜き…じゃない、気分にゆとりが持てるようになっていたある日のこと。
「うううむ」
自室で、眉間にしわを寄せて考え込むあかね。お付のものを全員下がらせ、普段あまり使わない脳みそが、フル回転しているのが聞こえてきそうなくらい、同じ姿勢で、円座に腰掛けたままうなり続けている。
神子として、牛鬼でさえ一撃で倒せるだけの力を持った彼女が、そこまで思案するもの。それは京の平和か、鬼の一族のことか、行方不明になったままの、八葉天真の妹の事か。

「頼久さんと、友雅さん。どっちがオイシイかなあ…」

聞かなきゃよかった。
なんのことはない。あかねは、最終決戦に向けて、誰を選ぶか真剣に悩んでいる真っ最中なのである。
「信じる心も、思う心もばっちりだし。絶対選んだほうとラブラブエンディング迎えられるのは、間違いないんだけど…。どうするかなあ。どっちがいいかなあ」
神子の言葉とも思えないような台詞が、ぼんぼん独り言として宙に舞う。
確かに、他の誰にも聞かれたくない内容なわけだ。そこまで真剣に悩む必要があるのかどうかは別として。(大体違うゲームが混ざってる)

あかねは、まずひとりずつの長所を考えてみることした。
どんな理由にせよ、これから自分の一生を変えるかもしれないことなのである。花の女子高生としては、将来の伴侶となるべき男を吟味するのは、当然と言ったら当然なのだが、どうも、あかねはヨコシマな思いが多いような気がしてならない。

「まず、頼久さんからいこう。ルックスは申し分ないし、背だって高い。うでっぷしも強いから、万が一、痴漢にでも遭ったときには守ってくれるだろうし」
頼久より、お前の力で一撃なのでは。
思い出し笑いをしているあかねが、なんだか怖い。
源頼久は、純朴青年というか、クールというか、ようするにいい年こいた朴念仁。という感じの人物なのだが、それを補ってあまりある魅力があった。そう、顔がいいのである。
切れ長の瞳。藍色の流れる髪。長躯で、引き締まった身体つき。ちょっと無器用で、盲目的なところが、現代の女子高生の心を、逆にゲットして離さない。
『私がいないと、この人は駄目になる』という、母性本能くすぐりまくりの彼は、それはもうあかねにぞっこんであった。

「神子殿をお守りする役目、誰にも譲る気はありません」

こう言われて、傾かない女がいるだろうか。いや、いない。

「ふふふ。頼久さんだったら、浮気の心配もなさそうだし。買い物で荷物持ってくれそうだし。命令すれば料理だって、掃除だって、洗濯だってやってくれるかも」
…哀れ頼久。
あかねの中では、彼は便利屋にしか思えていないのだろうか。
もっとも、当人同士がそれでいいのであれば、構わないのだが。

「次は、友雅さんね。えっと、顔はもう別格だし、武官だから当然強いし、歌も、踊りも、何でもできるし。一緒にクラブなんかに行ったら、盛り上がって収拾つかないよね」
1年前まで中学生だった人間とは、思えない台詞である。(元宮あかね…。今までにそうとうの場数を踏んでいるらしい)
橘友雅は、京の帝に仕える武官である。その強さもさることながら、緑に輝く黒髪、艶っぽい瞳、そしてたぐい稀なる美声と、「THE・遊び人」を地で行くような男であった。立居振舞いも優雅で、なにをするにしてもソツがない。会話もあくまで軽く、相手を楽しませることを心情とし、楽器の演奏もお手の物。だが、それ以上に、時折見える真剣な表情が曲者なのであった。

「何者をも捨てても、得たいと思うものができたよ…。さて、なんだと思う?」

私――――!! 
と叫びたいのが、オンナノコの心情ではないだろうか。
「隣に並んで歩くだけで、ステータスよね。ある意味器用貧乏だから、向こうの世界でも適当に仕事こなして、稼いでくれそうだし」
…あかねの考えていることは、まるで結婚願望のあるOLのようであった。
実際本人が聞いたら、倒れそうなことを口走っていることを、あかねは全く気付いていない。

「あー。これじゃ選べないなあ。じゃ、短所考えてみようかなあ」
消去法とは、人に使う手段ではないのだが、あかねの辞書に人権という文字はない。

「頼久さんは…。こっちが飽きたとき、別れるのしんどそうだな」

血も涙もないとは、まさにこのことである。
あれだけ惚れさせておきながら。必死でロードしながら、ふたりで力の具現化を行ったのは、なんのためなのだろうか。付き合う前から、次の男の子とを考えているとは…。
元宮あかね。恐るべし。

…まあ、この時点で二股をどうどうとかけていること自体、常人には及びもつかない、バイタリティ溢れる龍神の神子なのだが。

「友雅さんは…。別れるのは楽そうだけど。中年だしな」

血も涙もどころか、「お前人間じゃねえ!」という発現である。
確かに親子ほども年が離れているかもしれないが、それを承知で今まで付き合ってきたにも関わらず、いざ最終決戦になれば、その後の身の振り方を考えてしまうとは…。
オンナノコとは、実に性根たくましい生き物である。(真綿で物をくるんだような言い方をすれば、だが)

「あーもー!!! こんなんじゃ決まんないよ!! めんどくさくなっちゃった。もう、クジでいいや、クジで」
さ、最低だ!
男の生涯をかけた選択を、クジで片付けようとしていますよ、この女っ。
「あみだでもいいや」
あみだ―――!
最早、龍神の神子、元宮あかね大爆走である。最早誰にも止められない。
哀れなるは、こんな小娘に振り回される源頼久と、橘友雅。果たして、彼らの運命やいかに。

「神子様? どうかされたのですか?」
「あ、藤姫。なんでもないよ。そうだ、ちょっと紙があったらもらえるかな?」
実行に移そうとしてますよ―――!
そんなあかねの気持ちなど、まるでわかっていない星の一族藤姫は、そっと筆箱の脇にあった、懐紙を手渡す。
「…こうして、神子様のお世話をさせていただくのも、もう最後なのですね…」
悲しげな瞳。明日には鬼との最終決戦が控えている。(こんなときに、男の話題で盛り上がれるほうがどうかしてる)藤姫は、目を伏せた。
「明日には、神子様は京を救い、そして元の世界に帰ってしまわれるのですね…」
心優しい藤姫。アンタ騙されてるよ! とあえて言わないことが、親切ということもある。
「藤姫…」
あかねは、藤姫の言葉を聞き、自分の手で藤姫の小さな両手を握り締めます。さすがの龍神の神子も、藤姫の純粋な心に改心したのでしょうか。
「藤姫…」
「神子様…!」

「ありがとう藤姫! おかげで私わかったよ! どうせ向こうの世界に帰るんなら、戸籍だのなんだのの、問題山積みの男なんか、持ち帰っちゃ駄目だよね!」

こちらでお召し上がりという選択肢は、どうやらないらしい。

「こっちで暮らすなんて無理だしさ。レンタルビデオの延滞金が気になるし、ドラマの録画もおいつかないし!! そうだよねえ。だったら始めっから悩むことなんて、なかったんじゃん!」

呆然とする藤姫をよそに、あかねはますますヒートアップ。

「よし! 詩紋君にしよ! 天真君はシスコンだからめんどくさいし。詩紋君なら、若いから前途有望だしね! 一応、キープしておいて良かったあ。あの顔、きっと渋い顔になると思うんだよねー!」

そして、結論は出た。

キープとしてとっておいた詩紋は、下克上として、最終決戦のメンバーに選ばれ、そして元宮あかねは爽やかに元の世界に帰った。
残されたのは、打ちひしがれた男二人と、事実を知ってしまい、卒倒しそうな幼い姫。

今回は、爽やかに詩紋と、お菓子EDを迎えるということで、元宮あかねの遥かなる時空のたびは、決着がついたのであった。

………。
…………。


今回は?




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