(2)

「だって皆様から図書館には面白い本がたくさんあるんだよ、ってうかがったんです。でもここって
女王候補は入っちゃいけない規則なんでしょう?だからこっそり入ろうと思ってこの木に登ってみたんですが
ちょうど部屋にルヴァ様がいらしちゃって。私必死で身を隠してたんですよ」

「そこで俺が勝手に勘違いしちゃったわけか」
「そういうことです」

ここは俺の早とちりを謝るべきなのかな、それとも規則を破ろうとしたアンジェリークを叱るべきなのかな。
うーん…どっちもやっとくべきだよな。

「アンジェリーク、まずは俺のミスを謝るよ。ごめん。だけど君の行動は感心できないよ。規則には必ず
意味があるんだ。それをないがしろにして破るのは良くないよな」
「…はい。ごめんなさい」

あれ。拍子抜けするくらい素直な反応だな。
アンジェリークはとっても神妙な顔をして俺のお説教を聞いてる。
俺はもっと「でも納得できません!」とか食って掛かってくるのを予想してたんだけど。

「ここの図書館は君が思ってるよりずっと広いんだ。君一人をここに来させたら間違いなく迷子になっちゃう
よ。俺だって何度か来てるけど知らないセクターには一人では行かないようにしてるんだ。そのくらい
広いんだよ」
「はい」
「それに、たくさんの情報は君を迷わせてしまうかもしれない」
「え?」

今まで伏せ気味だったアンジェリークの顔が不思議そうに俺を見上げた。
まるで海のような、穏やかなブルーグリーンの瞳。
でも穏やかなのは色だけだ。
瞳に反射する光は溢れ出すほどで明るくて強い。―――すごく、綺麗だな。

「確かに本から学ぶのも大事だと俺も思うよ。でもそれ以上に、君は女王候補に選ばれたんだから
誰の影響も受けてない君らしい育成が出来ハズだ。そういう素質を過去の情報で覆ってしまうことは
良くないんじゃないかな。だから俺はそんな規則があるんだと思うよ」

そう言ったら、アンジェリークはものすごく真剣な顔をして俺を見た。

「そうですね。ランディ様のおっしゃる通りかもしれません。私が間違ってました。すみません」
「よかった。分かってくれたんだな!」
「はい」

今度はにっこり笑って返事をする。
アンジェリークって見ていて気持ちがいい。
颯爽としていて、凛としていて、でもどこか愛嬌があるんだよな。

「でも君ってこういう思い切ったことをするとは思わなかったよ。なんていうか…すごく真面目だと思ってたからさ。ハハ、俺もまだまだ人を見る目がないな。君がこんなに魅力的だったなんて気づかなかったよ。
なんかすごく君に近づけて嬉しいな…なーんて」

俺はここまで言って、ふと『なんか今、とんでもないことを言わなかったか?』と思った。
でもアンジェリークは目の前で気にした風もなくニコニコしてる。
よ、良かった、怒ってないな…。

「私もです。ランディ様がこんなに行動力があって頼もしい方とは知りませんでした。だって勘違いとは言え
私を助けにこうして登ってきてくださったんですもの。嬉しかったです、とっても」
「・・・・・・う、うん。なんか照れるな」

ブルーグリーンの瞳がキラキラ笑う。
俺の胸がドキドキ歌う。

「木登りお得意なんですね」
「ああ。見晴らしの木とかにも登るくらいだからね」
「見晴らしの木?」

アンジェリークは興味をもったようだった。
俺は、森の湖にある大木のことで、そこから星空を見上げるのは最高だと教えてあげる。

「見てみたいです!」
「でも女の子の夜歩きは危険だよ」

一応守護聖としては夜歩きを奨励するようなことは出来ないもんな。
するとアンジェリークは意外そうに「あら」と言った。

「もちろん付き合って下さるんでしょ、ランディ様?」

俺に断る理由はない。

「ああ、俺でよければ付き合うよ!」
「よかった。約束ですね」

俺たちが笑いあってると、突然離れたところから声が聞こえた。

「あ、あ、あ、あなたたち〜危ないですよ〜何やってるんですかぁ〜!?」

ルヴァ様だ。2メートル位離れた所からすごく驚かれた顔をしてる。

「いけねっ」
「あはは。見つかっちゃいましたね」

アンジェリークはこんな時でも楽しそうだ。
俺もいたずらを見つかった気分でちょっと楽しかったりして。

「すみません、ルヴァ様!」
「あ〜気をつけて下さいね〜。危ないから早く降りてください〜。アンジェリークあなたもですよ〜」
「はーい、ルヴァ様」

俺は枝から直接飛び降りた。
このくらいの高さなら慣れてるから、簡単に着地する。
俺は下から叫んだ。

「アンジェリーク、落ちても俺が受け止めてあげるよ!」
「うえーん、ランディ様ずるいです〜」

 アンジェリークがいちいち足場を確認して降りる。
 実は高いところ苦手なのかな…?

「きゃあっ」
「危ないっ!」
「ああああ〜アンジェリークッ!!」

アンジェリークが叫んだのと、俺の体が動いたのがほぼ同時だった。
差し出した両手に、衝撃。俺はアンジェリークを両腕で受け止めてた。

「ラッ、ランディ様すみません!!」
「ああああああ、良かった〜。アンジェリーク怪我はありませんね〜?」
「は、はい」
「ランディ、偉かったですよ〜。待っててください、今私も下に降りますからね〜」

ルヴァ様がほっと胸をなでおろして、ぱたぱたと部屋の奥に消える。
アンジェリークは俺に怪我がないか心配してる。
…怪我はないんだけどさ…。

「アンジェリーク…その…」
「はい。何ですか?」

俺は言うかどうか迷ったが結局言うことにした。

「見晴らしの木に行くときは…その…スカートじゃない方がいいと思うよ」

みるみるアンジェリークの顔が赤くなる。
や、やっぱりマズかったか。

「・・・ランディ様のエッチ!!」

この後、俺の左頬を見たルヴァ様に「おや〜もしかして顔で受け止めたんですか〜」と言われた。
…そういうことにしといてください。ハハハ……ハ…。

+++++++++++++++

アンジェリーク。栗色の髪をしたちょっと強気な女の子。
ときどき俺が驚くようなことをするけれど、仕草や行動一つ一つが面白くて眼が離せない。

俺は守護聖として、男として『成長したい』って気持ちがさらに強くなったよ。
君と釣り合う男になるように俺も頑張らなきゃな。

この次 君とここで星空を見上げる時にはきっと…この想いが伝えられるように、ね。

・FIN・

 

【BACK】【TOP】


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送