6vxjki6e

 

   栗色の髪を撫で付けながら、アンジェリークはまだ眠そうな動きで目覚まし時計のベルを止めた。
 午前4:50。
 窓から覗く空は深い藍色で、遠くから鳥の鳴く声が聞こえてくる。

「ん…今日もいい天気になりそう。…良かった」

 大きく伸びをして、目をムリヤリ覚まそうとする。
 手早く身支度を整えて、彼女は真っ白なエプロンをつけると調理場に立った。

「よし。頑張るぞ!」

 今日のデートのために、彼女は弁当を作るのである。

□□□□□□□□□

 時は4日前に遡る。
 庭園を散歩していたら、草の上に寝転がっているゼフェルを見つけた。
 気持ち良さそうに瞳を閉じている。

 アンジェリークは、もっと顔が見たくて、そっと近寄った。
 いつもの彼の、挑むようなルビー色の瞳は硬く閉じられたまま。
 だからだろうか、今日の彼はとても無防備で、もっと近づけそうな気がする。
 もっと・・・そう、その髪に触れられるくらい・・・

「何か用かよ」

 伸ばしていた手を、悲鳴をあげるより早く引っ込めた。
 彼の瞳は閉じたまま。ただ口だけを動かしていた。
 彼は起きていたのだ。

「あの…えっと…」

 自分の行動を気づかれていた、と思うと恥ずかしくて上手い嘘もつけない。

「ご、ごめんなさい…私…っ」

 泣き出しそうなくらい真っ赤な顔をして、アンジェリークはしどろもどろになりながら謝った。
 突拍子もない自分の行動を、この少年はどう思っただろう。
 そう思うと、こみ上げる羞恥でこのまま消えてしまいたかった。
 だがそんな彼女をよそに、ゼフェルは上体を起こしアンジェリークを見ると、驚くべきことに『笑った』。

「何だよ。イタズラでもするつもりだったのか?」

 その屈託のない笑顔に、アンジェリークは言葉をなくす。
 彼のこんな笑顔を見るのは初めてだった。
 今度は別の理由で、アンジェリークの顔が赤く染まる。

「いえ…あの…っ、あんまり気持ち良さそうになさってたから寝てらっしゃるかと思って…」

 言い訳にならない言い訳を、彼女は小さな声で必死に紡ぐ。
 恥ずかしくて目が合わせられない。

「…ん? ああ…最近ちょっと寝不足だったからな。今日はその補充」

 そういえば、彼の大きな瞳の下には、薄いクマが出来ている。

「え…」

 それを発見して、一瞬心配そうな顔をしたアンジェリークを見て、またゼフェルは苦笑した。

「んな顔すんなよ。ちょっと機械いじりしてさ…それも昨日終ったんだ」

 だから今日の彼はすこぶる機嫌が良かったらしい。

「何を作ったんですか?」

 ゼフェルの言葉に興味を持って、アンジェリークは身を乗り出した。
 彼の表情からして、相当の自信作だろうと思ったからだ。

「な、なんでぇ…オメー興味あるのかよ」
「はい、とっても!」

 彼女の反応が嬉しくて、でもそれを露にするのが照れくさくて、今度はゼフェルのほうが目をそらした。

「しょーがねーな。…今度の日の曜日に試運転するけど、…オメーなら見せてやってもいいぜ」
「わぁ! ありがとうございます」
「…言っとくけどなー、オメーだけだからな! 他のヤツらに喋んじゃねーぞ」
「はい。約束ですね」

 その約束の日が、今日なのである。

□□□□□□□□□

「んー…辛さってこのくらいかなァ・・・」

 スパイスをたっぷり使った料理の味見をする。
 彼の好みを以前に聞いておいたのが幸いした。
 昨夜遅くまで、料理の本で調べておいたので、品数も彩りも完璧である。
 最後にカレーペーストを挟んだサンドイッチをバスケットに詰めて、お昼の準備は完了した。
 時間は7:15。
 約束まで2時間近くある。

「ちょっと張り切りすぎたかも…」

 キマり悪そうに頬を掻いて、アンジェリークは呟いた。
 まだ少し眠気があるが、ここで二度寝をしたら起きられそうにない。
 アンジェリークは、せっかくなのでシャワーを浴びることにした。
 動いていないと、睡魔に襲われそうだった。

 一方。

「…んっだよ、もう朝かよ…」

 まだ寝起きの掠れた声でゼフェルは忌々しそうに起き上がった。が、彼は寝具にくるまってはいない。
 ここは彼の工作室であり、ゼフェルは昨夜3時まで、新作の微調整をしてそのまま眠ってしまったのだ。
 それでも世話用ロボットに起床時間を告げ、

「ぜってー起こせよ! 俺が何と言おうが、無視して起こせ。いいなっ!」

 と命令しておいたのである。
 その策は効を奏し、ゼフェルは何とか寝坊を免れた。

「ちくしょー…あんま寝れなかった…」

 どうやら寝不足なのは機械いじり以外の理由もあるらしい。
 本当のところは、この機械は最初からあの女王候補に見せたくて作ったものだった。
 そして作ったがいいが、どうやって誘う口実を作ろうかと悩んでいるうちに、ふって沸いたようなチャンスがこうして訪れたのだ。
 はしゃぐな、と言う方がおかしい。
 上手く二人っきりの約束を取り付けたし、我慢してもどうしても口の端が緩んでしまうゼフェルである。

「そろそろ迎えにいってやっかな…」

 外に出たとき、気持ちよく晴れた空に、彼は何か予感めいたものを感ぜずにはいられなかった。

†NEXT†
†TOP†

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送