「ジュリアス様・・・?」 もう一度、アンジェリークが不安そうに彼の名を呼んだ。 ジュリアスは彼女を抱きしめるわけにもいかず、かといって離れがたくて、まんじりとも動かない。 「ジュリアス様・・・」 アンジェリークが彼の名を呼ぶ。 「そんなお顔をなさらないで下さい」 うつむいたアンジェリークから、くぐもった声が聞こえてきた。 「・・・驚かせて、すまない」 出てきた言葉は謝罪だった。 「いいえ。どうか謝らないで下さい。そして無理もなさらないで下さい。そんなジュリアス様を見るのは・・・つらいです」 彼女はそっと顔をあげて、だが羞恥のために目をあわすことが出来ずにまた顔を伏せた。 「普段のジュリアス様に戻るまで、お傍にいさせてください。このまま・・・」 その言葉に、弾かれたようにアンジェリークは彼の胸から離れようとした。が、今度こそジュリアスの手が彼女の細い肩を押さえて逃がさない。 「・・・あの・・・ごめんなさい私、生意気なこと言っちゃって・・・お気を悪くなさいました・・・よね?すみません。 今度は少し力をいれて抵抗したが、ジュリアスはひるまずにそのまま抱きしめつづけた。 「私は、お前とともにいる限り平常ではいられない」 囁くように、噛み付くように、低い声がアンジェリークの耳元で発せられる。 「始めはお前が女王候補としてやっていけるのか心配で見ていた。だが最近はどうにも違うのだ」 もはやジュリアスは認めるしかなかった。 「お前が誰かといるだけで私の心は張り裂けそうになる。お前の口から誰かの名を聞くだけで落ち着かなくなる。 気まぐれに去来しては思考を絡め取る存在。 「そんな自分を、以前の私なら不甲斐ないと叱咤するだろうが今の私はそれすらも出来ない。・・・いや、むしろその痛みさえ、心地よいと感じてしまっている。私は、どうしてしまったのか・・・」 アンジェリークは、身動ぎ一つせずにジュリアスの言葉を聞いていた。 「よかった・・・」 アンジェリークが呟いた。 「私、ジュリアス様に嫌われちゃったかと思ってました。昨日のご様子がおかしかったから。でも・・・よかった」 ふわり、と微笑む。 「嫌われてなかったんですね。ホッとしました」 ジュリアスは確かめられずにいられない。 「・・・それは、どういう・・・アンジェリーク、お前は私の言った意味がわかっているのか・・・?」 その言葉に、アンジェリークはもう一度目を細めた。 「はい」 ジュリアスも微笑む。 「風が冷たくなってきたな。大切なお前に風邪をひかせるわけにはいかぬ。戻るとしよう」 彼は左手を差し伸べた。その手にアンジェリークはそっと自分の手を重ねる。 「私はもうしばらく、この感情に付き合おう。・・・少し、結論を急ぎすぎたようだ。取り乱してすまなかったな」 さらりと失態を認められてしまって、ジュリアスは夜目にも分かるほど赤面した。 「・・・他言無用だぞ」 しばらくの間、ジュリアスがアンジェリークにとる態度がぎこちなかったのは言うまでもない。
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彼女が自分の感情を拒絶しないだけで、ジュリアスは十分だった。 後日、招待状を受け取った感性の教官が遠慮なく渋面を作ることを、彼はまだ知らない。 END |
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